ACFE JAPAN > 理事長対談 > 第2回 八田進二 氏が公認不正検査士 (CFE) への期待と会計・監査、内部統制を語り尽くす

ACFE JAPAN 理事長対談 第2回
八田進二 氏が
公認不正検査士 (CFE) への期待と
会計・監査、内部統制を語り尽くす

2018 年 3 月に青山学院大学を退職された八田進二氏は、会計・監査研究の第一人者として永く活動されて来られました。その実績から同校の名誉教授の称号を授与され、この 4 月からは大原大学院大学の教授に就任され益々ご活躍中です。また、金融庁企業会計審議会の委員及び内部統制部会の部会長でもあり、内部統制の分野でも日本における第一人者でいらっしゃいます。
日本の経済社会では、東芝の会計不正事件や、その他の製造業の企業でも品質管理に起因する不祥事が次々に発覚している状況です。ガバナンスや内部統制の視点から見た企業不正・不祥事の現状について、会計・監査研究の第一人者として、また、ACFE JAPAN 評議員会会長としてのお立場から、八田先生に企業不祥事における CFE の役割やその業務の発展の可能性についても広くお話をお伺いしたいと思います。
(聞き手:ACFE JAPAN 理事長 藤沼亜起)
聞き手 藤沼亜起氏の写真
藤沼亜起 (ふじぬま つぐおき)
日本公認不正検査士協会 理事長 (2018/6-)
中央大学 商学部 卒。1974 年 公認会計士 登録。国際会計士連盟 (IFAC) 会長 (2000-2002)、日本公認会計協会 会長 (2004-2007)、IFRS 財団 評議員会 (Trustees) 副議長などを歴任。

目次

会計・監査分野の動向:企業と監査法人が直面する課題

八田進二氏の写真
八田進二 (はった しんじ)
日本公認不正検査士協会 評議員会 会長
博士 (プロフェッショナル会計学)、公認不正検査士 (CFE)
青山学院大学大学院 会計プロフェッション研究科 教授を経て、青山学院大学 名誉教授。大原大学院大学 会計研究科 教授。日本監査研究学会 会長、日本内部統制研究学会 会長、会計大学院協会 理事長、金融庁 企業会計審議会 委員 (内部統制部会 部会長) 等を歴任。

藤沼:最初に会計・監査について伺います。2015 年 ACFE JAPAN 創立 10 周年記念インタビュー記事「これまでの歩みとこれからの展望」(FRAUD マガジン 43 号に収録) の中で、会計・監査社会での課題についてお話しいただきました。当時から現在までの会計監査の分野の動向はいかがでしょうか。

八田:私が 2015 年に会計・監査社会についてお話しした直後に東芝における会計不正問題が露呈しました。会計および監査の信頼性が改めて問い直され、日本の経済社会にはその余韻が今も残っています。さらに、会計不正にとどまらず、製造業におけるデータ改ざん等、不正が多様化する形で露呈しています。
このような不正・不祥事が日本経済に及ぼす影響を鑑みて、関係省庁による制度改革のための見直しも行われています。一例としては、2015 年 10 月、金融庁に「会計監査の在り方に関する懇談会」が設置され、2016 年3月に監査上の問題に対する制度対応のための提言書を公表しました。それを受け、翌 2017 年3月に、「監査法人の組織的な運営に関する原則」(監査法人のガバナンス・コード) が公表されました。さらに、監査業務の内容をより分かりやすく説明するために、監査報告書の透明化のための取り組みや、同一監査法人と企業の契約の固定化の弊害への懸念から監査法人のローテーション制度についても議論されています。これだけでも課題は山積していると言えるのではないでしょうか。
会計不正と製造業でのデータ改ざん・品質偽装は全く別の問題だという捉え方もあるようですが、私は、両者には共通の根本的原因が存在すると考えています。一つには、不正を黙認した人も含めて不正に関与した人たちには、社会や利害関係者に向けて正しい情報を適時適切に開示するという強い責任感が欠如しているということです。こうした説明責任 (アカウンタビリティ) は正しい情報の適時適切な開示によって果たされると考えると、日本ではアカウンタビリティ概念が極めて希薄であり、この点が一番の課題だと思います。

東芝の事例に見る監査の現状

藤沼: 2015 年のインタビューでは、八田先生は公認会計士や企業の監査業務担当者にとって不正防止・調査に関する能力の強化の必要性を指摘されました。その後、東芝の不正会計問題が報道される中で、不正を見抜けなかった監査法人の責任を問う声が社会に広がりました。また、後任監査人の再三にわたる意見表明の遅れと、「限定付き適正意見」という不可解な監査意見の表明があり、その後、監査人の側に説明責任が果たされていないという社会の批判が起きたように思いますが、日本の監査の現状についてどのようにお考えでしょうか。

八田:東芝問題というのは非常に多くの課題を秘めた事例であり、どういう切り口で検証するかという問題があります。今のお話しの中での問題として、前任監査人と後任監査人との間で、適切な監査業務の引き継ぎがなされていたのかということが、1つのポイントであると思います。初めての会社に対する監査を行うという場合、これは初度監査ということで、監査人は新規の監査契約の締結に際して、円滑な監査の実施が可能かどうかといったことも踏まえて、必要な検証手続や業務を適切に行うことが極めて重要です。それらがなされていて初めて十全な監査が期待できるわけです。
ところが、東芝の事例では、後任の監査法人は金融商品取引法に基づく四半期開示の中で、2016 年度の第1、第2四半期決算については無限定の意見を表明しました。その後第3四半期の 12 月末になって会社側から、実は米国の子会社で数千億円の減損が発生したのではないかというメッセージが適時開示されたことで、監査法人は、年明けの 2017 年になって前の期間にさかのぼって監査の見直し作業を始めたというのが実態ではないでしょうか。
このような状況を見ると、監査意見の内容よりも、後任の監査法人は、一体どういう監査をしてきたのかということに対する、疑念・不信感が増幅したということが事実です。加えて、第3四半期の意見表明が2度にわたって延期され、本来2月 14 日であるべきところが、4月 11 日に発表された結果は「意見不表明」だったわけです。すでに年度決算の期限を迎えており、本来であれば第4四半期といいますか、年度決算の作業が始まるときでさえ、第3四半期のレビューも終わっていないという状態でした。こうした作業の遅れは、おそらく制度上考えていなかった問題ではないかと思います。
さらに、8月に提出された 2017 年3月期の有価証券報告には、2つの驚きがありました。1つは財務報告に係る内部統制の評価報告書に対して不適正とする監査人の意見が表明されたということです。加えて財務諸表の監査に関しては、減損損失の認識時期に疑念があるということで限定付適正意見を表明したのです。しかし、限定事項として指摘した金額は6千億円程度ということから、連結売上高の1割前後です。これほど巨額の問題を指摘しておきながら、不適正意見ではなく、限定付適正意見となっているのは、監査論的にも、また、重要性の問題からいってもあり得ないのではないでしょうか。
後任監査人の行動、あるいは表明している意見を見ると、私たちが期待する、あるいは求めている監査結果とはかなり乖離したものが社会に表明されているということです。それゆえ、投資家を中心とした利害関係者は何を信用すればいいのか、という戸惑いが続いています。その後、市場の番人ともいわれる自主規制法人日本取引所の理事長は、「監査というものはなかなか信頼できない」といったメッセージを世の中に出しました。このような状況に前に、私自身、日本公認会計士協会が自主規制機能をもっと発揮すべきではないのかという思いを持っています。藤沼先生はどのように思われますか?

藤沼:監査人にも守秘義務という倫理規程があります。ですが、限定付適正意見という結論に至った理由は守秘義務がありますから一切開示しませんという説明は疑問ですね。

八田:守秘義務に関しては監査基準上の規定、さらには、倫理規則での規定があるのはご指摘の通りです。そこでも、法律によって認められている場合や、自分の権利を主張する場合などは、守秘義務が解除されます。たしかに、企業の機密とか機微に関わるような事項は別として、パブリック インタレスト (公共の利益) への貢献の比重が高い場合には、監査人の監査内容に関して社会に説明すべき意義があるならば、私は公共の利益を第一に考えて取るべき行動はあると思います。

藤沼:公認会計士協会も守秘義務については問題意識を持っていたと思います。東芝の臨時株主総会では株主から出された監査法人の説明を求める動議は、残念ながら会社に却下されました。しかし、それでも意見を述べる権利は認められていますが、それを行使しなかった。この点は非常に残念だと思いました。

八田:その通りで、東芝の事案では、会社と監査法人の両者に説明責任という点で問題があるということです。その結果、株主を中心とした投資家が真実かつ適時の情報を得られていないことから、制度が十分に機能していないと言わざるを得ません。

藤沼:そうですね。監査人が問題ありとした財務諸表が株主総会で承認されたということを監査人として受け入れてよいのか、辞任する必要がなかったのかという問題意識もあります。

八田:厳しい言い方になりますが、後任監査人が取ってきた行動を振り返ると、倫理規則的にも、大いに問題があったのではないでしょうか。
第一に、財務報告に係る内部統制に重要な欠陥があると言っています。つまり、これでは、適正な信頼し得る財務報告が期待できないということであり、通常の監査手続の実施では監査を行えないということでもあり、倫理規則的にも辞任すべき事案だと考えられます。
第二に、前任監査人が辞退した理由は、会社側からの適時開示によって、経営者を中心とした組織的な不正が見られる、不適切な対応があって、通常の監査手続では監査がなし得ない、従って来年は監査をしないという辞退届を出したことです。ただ、メディアの報道は、会社側が契約を継続しない、という全く違ったものでしたが。したがって、先のような理由による前任監査人の辞退後に監査を引き受けているわけですから、後任監査人は、そうした前任監査人の抱いた疑念・疑惑を払拭して、新しい視点で厳格に監査対応したのかという点にも大きな疑問があります。ところが、第1、第2四半期決算に無限定の意見を出した。その後、会社が巨額の減損の可能性を公表したことで監査法人のほうも不正を疑って過去の決算を調べ始めた姿が見て取れる。それに約半年以上掛かったとのはやはり非常に残念ですよね。
前任監査人も含めて、不正問題を検証できるようなリソースや能力を持っていたのかどうかという点も疑問です。ACFE が認定する公認不正検査士 (CFE) は不正の発見・調査に必要な知見あるいは能力を備えています。残念ながら会計士ないし監査人には、そのような能力が直接的には求められていませんから、性善説的な監査では不正を見抜くのは難しかったのではないでしょうか。

藤沼:おっしゃる通りですね。監査はハード エビデンスがないと、「こうだ」とはなかなか言えないものです。公認会計士としての私自身の経験を振り返りますと、CFE に求められる不正検査の知識は重要ですし、それを持つことでたとえば「フォレンジックの専門家に相談する」等の対応策が取れたのではないかと思います。公認会計士は、財務諸表の正当性を立証しますが、不正を探す、詳細な調査をするといったことに慣れていないこともありますから、詳細な証拠収集のスキルを含めて CFE の資格というのは、公認会計士も修得しておくと良いのではないかと考えています。

八田:不正検査士に関する知識や経験を備えることで、監査人という第三者の立場で専門的な技能を行使しながら、より深度ある監査や検証、あるいは監視・監査を履行することができるようになるのではないかと思います。ですから、公認会計士だけでなく、企業の監査役、監査等委員、内部監査部門、コンプライアンス部門とか、さらには内部統制に携わる人も、不正検査士に関する知識を持つことは非常に有益だと思います。

今後の監査の方向性:数値の保証からプロセスのチェックへ

藤沼亜起氏の写真
対談中の藤沼亜起氏

藤沼:2015 年のインタビューに戻りますと、八田先生は会計監査や財務監査を越えて、業務監査的な視点を取り込んだ企業の健全性を監査する企業監査ないしは統合監査という考え方を示唆されました。会計監査の再定義が必要だとのご発言にショックを受けた記憶があります。最近の神戸製鋼の検査データの改ざんとか、日産自動車の不適切な完成品の検査等、製造業の現場で不祥事が起きている中で、内部統制環境を支える倫理面から見た日本の企業風土ということについてはどのようにお考えですか。

八田:このご質問に関しては2つの側面があると思います。1つは、今後の監査のありようとして、現行の会計監査、つまり財務諸表の信頼性の検証を中心とした監査だけでなく、その背後にある活動や行為の妥当性、適切性まで見届ける必要があるという思いがあって、そういう発言に繋がりました。
もう1つは、学会でも情報の信頼性を担保するための会計監査と業務の有効性等を検証する業務監査の2つのカテゴリーに分けて議論してきた経緯があります。しかし、私は企業内の事柄や活動等は、最終的にはすべて貨幣的価値に置き換わった会計数値に結び付くと考えていますので、会計監査の場合であってもそこまで見届けないと不十分ではないかと考えています。ところが、従来の監査論の世界では、外部監査の目的は、不正を見抜くためではなく結果数値の信頼性を保証することであると言われてきました。そのため、監査人は不正問題が露呈しても、自分達の責任を回避する傾向にあります。たしかに、従来は、そういう理解が監査論上も一般的であったと思います。
しかし、米国で 2001 年にエンロン事件、2002 年にワールドコム事件が相次いで起きたときに、不正を見抜けない監査は不要なのではないかという議論が起きたわけです。それでも、一方で「不正の専門家が監査しているわけではないので不正の発見は困難だということと、不正が企業の中で起きているならば、企業側の責任で対応すべきではないか。それが内部統制なのだ」という議論があって、一応、公認会計士には飛び火しませんでした。
ただ、今ではそのような考え方がさらに強まっています。なぜならば、情報技術 (IT) や人工知能 (AI) によって、定型化した作業項目は機械による自動化が可能になりつつあります。したがって、監査人等の専門家は人間の行動、思考や意図まで見届けるようにしていかないと、最終的な数値の信頼性を確認できないのではないでしょうか。日本は金融商品取引法の下で内部統制報告制度が入ってきましたから、公認会計士監査においては、旧来とは異なる視点でのもう少し踏み込んだ財務諸表監査をしているのではないかと思います。

藤沼:ただ、監査人には伝統的に非財務情報の監査を嫌がる傾向があると思います。
監査証明を出すと、非財務情報の責任を負うことになります。内部統制監査は財務諸表の適正性のためだという位置付けです。八田先生が統合監査という概念を示唆したとき、これは内部統制の監査の延長線上の発言だったのか、それとも製造業で起こった色々な問題に言及したのかということを考えました。しかしながら、たとえば神戸製鋼の事件は企業の財務数値に影響を与えているわけです。そうなると、公認会計士はどこまで踏み込むかということも考慮しなければなりません。

八田:現実にはいくつか難しい課題もあります。そうした非財務情報の信頼性等を判断する基準がないということが一番の問題です。監査では、監査人の行動ないしは判断の基準がある程度確立していることが求められます。非財務情報的な部分は基本的に文字情報が多く、それに対して会計数値は基本的に客観的な数字です。となると、まずは非財務的な情報に関する判断尺度にどういう形で指標が与えられるかということが重要です。つまり、具体的にどの程度の基準が社会的に容認されて確立されているか、それが第一の部分だと思います。ただ、すでに監査法人では、たとえば環境報告書や統合報告書に関して、広い意味での保証業務という形でアシュアランス サービスを提供しています。これがより精緻なものになっていくならば、そういう方向にいくのではないかなという気がします。会計の世界も以前に比べて、主観的な要因が広範囲に亘ってきており、監査人の業務も大変になってきています。

藤沼:難しくなりましたね。

八田:そもそも将来情報、予測情報、見積もり情報などを会計士が判定するのは困難だと思います。加えて将来のゴーイング コンサーン等予測が困難な主観的情報に関しても、現実問題として会計士はその信頼性を担保するための役割を担っているわけです。

藤沼:会社の将来を、誰か独立した第三者に保証してもらいたいという期待が社会にあり、会計士に求められる役割の範囲が広がっています。それを会計士が引き受けて良いものかは疑問ですね。

八田:その通りです。私は現在の財務諸表の数値というものは、あくまでも暫定値だと思っています。そして、それが特定の人の独断で恣意的に決まるのではなく、会社の中でデュープロセス (適正手続) を踏んだ結果の数値、あるいは、減損や退職給付の問題で巨額の金額が動く場合には、必要な正しい情報を入手した上で然るべき関係者が行った経営判断の結果、決定した数値であるならば、それは正しいわけです。
私は統合監査も、企業監査も、結果の信頼性保証ではなく、そうした情報化時に至るプロセスの信頼性や妥当性をチェックする監査に移行するのではないかと考えており、将来的には、監査とはそういう方向に向かうのではないかと思っています。

藤沼:それを支えるのは、基本的には内部統制だと思います。内部統制を支える統制環境の中に含まれる企業経営者の理念は、倫理観の有無により大きく異なります。会計士がそこまで把握できるのかというと難しいですね。

八田:私はそこまで求められる時代が来ると思います。内部統制の構成要素のトップは統制環境です。ただ、経営者の倫理観、経営哲学や経営戦略とか、物の考え方とか姿勢についての定量的な指標は存在しません。しかし、実際に不正が露呈すると、経営者による関与や影響という議論が起こりますから、そこに踏み込まずに、本当の意味での財務諸表監査は完結しないと思っています。ですから、監査人側あるいは会計士側も、よりレベルの高い知見と知識を持たなければいけないですね。監査は、経験豊富でビジネスを知悉 (ちしつ) した、教養と気概のある大人の仕事だと思っていますから。

藤沼:そういう面で私は、CFE 資格は監査人にとっても、追加的知識を得られるという点で、非常に有意義な資格だと思っています。企業の監査役を務めた経験から申しますと、経営者がいくら立派な人でも、その下で働く従業員が経済的な問題を抱え、内部統制上の欠陥や機会を利用するような、比較的少額な不正は常に発生します。そのことを認識して、できるだけ不正を防止・抑止する制度作りが重要です。そのために外部の公認会計士も含め、内部監査人は、経済的問題から不正をはたらく人間について知見を持つことが効果的な不正の防止策の立案をする上でも必要だと思います。

八田:私自身、日本での資格取得が可能になる前から、CFE 資格については知っていましたが、この資格に対して一番惹かれたのは、高等教育の課程を終えている人に受験資格が与えられるという点です。
教育と実務あるいは社会貢献を評価され、さらに知見を深めて、不正対策にあたる公認不正検査士は優れた資格だと思いました。したがって、是非この資格を広めるべきだということで ACFE JAPAN の活動に関わった経緯があります。会計監査をする者が将来に向けて不正検査、不正調査、不正防止の能力を養成するということは不可欠だと思います。

内部統制報告制度:企業の取組と見えてきた課題

藤沼:次に内部統制報告制度についてお尋ねします。2008 年に金融商品取引法の制度として導入された後でも、オリンパスや東芝の不正会計を始め色々な不祥事が起こっており、最近では製造業でのデータ改ざん事例も報道されています。新幹線台車の亀裂等、大事故につながったら財務に深刻な影響を及ぼすと思われるような事例が散見されています。
金融商品取引法、いわゆる J-SOX の下での企業の内部統制制度への取組の形式化を危惧しています。それについてはどういうふうにお考えですか。

八田:金融商品取引法の下で始まった内部統制報告制度には光と影の部分があると思っています。光の部分というのは、企業経営が健全に行われるためには内部統制という考え方、そして有効かつ効率的な業務運営が必要だと組織全体で理解されたことです。また、特に財務諸表監査を行っている会計士の方々には、以前から内部統制の重要性は理解されており、監査手続の一環としての試査という一部抜き取り検査においては、内部統制の有効性が生命線だということも企業側に訴えることができたということで、非常に高い評価を受けたものがあります。
一方で、内部統制報告書の中で内部統制が機能していないと述べた上場会社は、適用初年度は 2~3%、その翌年からは 1% を下回り、以後その比率が下がっています。ところが、有効に機能していると公表していた企業において、不祥事が起きたために、過年度にさかのぼって訂正内部統制報告書を出すという傾向が数多く見られるのです。それはこの制度が具体的な制裁措置の発動を伴わないものだからではないかという気がしています。ちなみに、内部統制報告書の評価結果のデータを調べてみると、過年度にさかのぼった訂正報告書が毎年 50 件程度出てきているということです。こういった状況が、影の部分と言えるのではないかと思います。

藤沼:子会社とか孫会社で会計不正が露見した。では内部統制報告書を訂正しておこうということですね。

八田:内部統制に魂が入ってこないのは、やはり全社的に経営トップから全ての方たちが、真摯な気持ちで自らの業務に携わらなければならない。そういう姿を見届けることができなければだめなわけで、それに対する内部統制評価が十分でないのではないでしょうか。

藤沼:その通りだと思いますね。ビジネス スクールで内部統制を教えたことがあります。日本の企業で内部統制の担当者の話を聞くと、製造部門の現場は協力的だったそうです。それでも先程上げたような不祥事が起きるのは、コスト カットや納期に間に合わせると言ったプレッシャーがあって全体的環境に負けたのかなという感じがしています。

八田:内部統制の問題は経営管理の手法の一環ですから終わりがありません。また、法律で内部統制の制度が導入されたからといって、あるいは健全な内部統制対応ができたからといって、利益が倍になるという訳でもありません。内部統制は、強靭な経営をする会社になるための姿勢であり、それゆえ全社的な取り組みが求められますから、重要なのはトップの姿勢です。ところが、会社で内部統制というと、中間層以下の業務プロセスの整備にとどまっていて、その上にいかない例が多いのは残念です。本当に内部統制が整備された会社はトップがすばらしい姿勢、あるいはメッセージを出しているところです。

藤沼:そこに内部統制の限界が見られますね。CFE は不正検査を実施して、問題点や実行者を把握した後に、その防止や抑止のために、必要な是正措置を考えます。そういった立場で、CFE は内部統制の限界とか、倫理観の欠如に対応すべきでしょうか。

八田:それは次のテーマになりますが、第三者委員会の報告書に端的に現れてきます。不祥事とか不正が起きると、日本の場合は第三者委員会を設置して原因究明を行い、事後的な是正策を、あるいは再発防止策を提言してもらいます。この第三者委員会報告書は、概して内部統制の脆弱性に言及しますが、具体的に内部統制の何が問題だったかについて触れていないのがほとんどです。内部統制の構成要素を見ていくと、「統制環境」、「リスクの評価」、「統制活動」、「情報と伝達」、「モニタリング」、それと「IT への対応」ですが、それらが整備されて機能しているかどうかを評価することで有効性を判定します。「統制活動」や「リスクの評価」は客観的な評価が可能ですが、先程申し上げたように一番大切な「統制環境」には客観的な指標がありません。
統制環境以外の要素が整備、運用され、機能していることが確認できたなら、統制環境も適切であるという推定は成り立ちますが、私は、トップ マネジメントの日々の言動・行動・活動を見極める必要があると思っています。

藤沼:確かにそうですね。

八田:この役割を担うのは外部監査人ではなく、むしろ監査役であり、監査役と会計監査人の情報共有が求められると思います。

藤沼:同感です。監査役が、監査人と情報共有をした上で、より深い調査が必要な部分のヒントを与えることも可能かもしれません。

八田:不祥事についての第三者委員会報告書の提言する再発防止策は、必ずと言ってよいほど内部統制の強化です。ところが、内部統制の何を強化すべきかほとんど書かれていません。
日本で起きている不正の過半が統制環境に起因していると思われます。ですが、統制環境は定性的で客観的に把握し辛いという性質があります。もう1つの問題点は、正しい情報の作成と、適時適切な伝達がされていないことです。トップの方が優秀でも、悪い情報が伝えられなければ適切な判断は行なえません。
組織の中における不正は、内部告発や内部通報という形で発覚しています。正常なレポート ラインではなく、すでに手遅れの状態で上がってくるわけです。

藤沼:複数の事業部門が縦割りの構造を持っていると、トップが真摯に取り組んだとしても組織構造的に全社的な内部統制は難しいという感じがしますね。

八田:たしかに全社的な内部統制の困難さはありますが、社長としての資質、適格性を見極める必要がありますね。それが要求されているのが指名委員会の役割です。
経営トップが、ある特定の部署に関しては専門家だけれど、それ以外の部門で起きているような事柄に関しては情報が遮断されているとか、あるいは、情報が上がってきても専門知識が不十分であるために、結果的に大きな問題になってしまうケースも考えられます。企業のビジネス モデルは急激に変化しますから、それに適合するようなトップの選び方というのはあると思います。

第三者委員会調査報告書:格付委員会の視点から

藤沼:私は、たとえば内部監査部門の中に、CFE がいて不審なことを報告できるような体制をつくっておくというのも大事だと思います。もちろん外部監査人との協力も考えられます。しかし、現状ではそういった仕組みはなく、企業で不祥事が起きると第三者委員会が設立されるという流れができていますね。
ここで第三者委員会についてのお考えを伺います。八田先生は、企業の不祥事件のたびに会社が設置する第三者委員会について、調査報告書の内容をさらに第三者の立場から評価する (勝手) 格付け委員会 (第三者委員会報告書格付け委員会 ) の委員でもいらっしゃいます。さまざまな第三者委員会の調査報告書の内容を分析して見えてきた第三者委員会の独立性や企業に内在する企業風土や経営上の問題点はどこにあるのか、どのようなふうにお考えでしょうか。

八田:会社で不祥事が起きたときに、やみくもに外部の第三者に依存すべきではなく、自助努力をした上で、外部に対する説明等で不足している部分に第三者、専門家の力を借りるべきです。第三者委員会報告書格付委員会の委員は、この委員会を立ち上げた久保利英明弁護士の「多面的な目で評価することが良い」という趣旨に基づき、原則、四半期に1回、年4本の報告書について格付けを行ってきています。残念ながら、格付結果はD (最低評価)・F (評価にすら値しない) といった低い評価が多く、たとえば東芝ですが、会計事案でありながら監査法人の問題が全然指摘されてない、海外取引に触れられていないといった理由で低い評価になっています。

藤沼:第三者委員会というのは、設置が望ましい場合でも、その仕組み、構成メンバー、選任プロセスが重要ですね。そして、独立性、専門性を担保するには、たとえば会計問題には会計士が、フォレンジック的な対応が必要なら CFE も入っていたほうが良いですね。

八田:企業が自らの経営責任の訴追を避けるために第三者委員会を設置する、そして問題なしという弁護士の結論の入った第三者委員会報告書を公表して、社会に対する責任を果たしたことにするという流れがあります。しかし、それでは我々の委員会での格付で高い評価の得られる報告書の増加は期待できないですね。

公認不正検査士 (CFE) が果たすべき役割

藤沼:ここまで会計監査・内部統制という切り口で、企業の現状についてお話を伺ってきました。そこで不正検査のプロフェッショナルである CFE は、今後どのような役割を果たしていくべきだとお考えでしょうか。

八田:公認不正検査士協会のミッションにもありますが、CFE には、不正を防止する対策を立て、組織の人員に対する助言あるいは指導・勧告を行う能力を発揮することを期待しています。それでも不正が発生したときは、CFE は専門的知識を活用して、効率的・効果的に調査をして、報告書を作成する役割を担います。海外でも、CPA (公認会計士) や CIA (公認内部監査人) の資格保有者が、CFE 資格を取得して差別化を図っています。日本の場合、たとえば内部監査人、株式会社の機関の一翼をなす監査役、監査委員および監査等委員、さらには社外取締役等の社外役員に不可欠な能力を養成するためにも、CFE 資格の取得は極めて重要だと思います。

藤沼:その通りですね。

八田:日本の企業で不正が起こると、多くの関係者は「あってはならないことが起きてしまった」と発言しますが、不正はどこでも起きる可能性があります。ですから十全な防止対策を講じ、内部統制と同様に適宜見直しをして、従業員の意識も高めなければならないと思います。そのための刺激を与えるような役割を担う必要があると思いますね。

藤沼:今、私が一番懸念しているのは、IT 技術を利用したサイバー攻撃・犯罪の急激な増加です。急速な技術革新の中で、CFE 資格保有者の専門分野が分かれてくると思います。デジタル フォレンジックの専門家が得意とする分野、セキュリティ関連、ビットコイン等の仮想通貨に精通した人や、IT 関連のスペシャリストを育成する必要があると思います。

八田:CFE に限らず、公認会計士も税理士も、環境が大きく変わってきています。これまでの知識だけですべて対応できる時代ではありません。新しい環境・状況の中において、次なる知見を修得していかなければなりません。専門職にとって不可欠なのは継続的な専門教育です。資格取得後も常に自己研鑽していく必要があります。

会計専門職の教育について:求められる資質・能力

藤沼:最後に専門職の教育活動について伺います。この3月に青山学院大学院を退職されましたけれど、会計専門職の育成に関わる高等教育の現場で最も重点を置かれたことは何だったのでしょうか。

八田:日本では 2004 年の法科大学院、2005 年の会計専門職大学院から、専門職大学院という制度が始まりました。私が関わった会計専門職大学院では、覚える会計から考える会計、つまり自分の頭で問題点を整理して自分の言葉で説明するという能力を重視しました。

藤沼:極めて重要な能力ですね。

八田:既存の知識に安住せず、主体的に行動できる意識と能力が重要です。企業を含めて社会では前例踏襲が見られますが、リスクを取ってリターンを得るのが経営ですから、リスク対応に関してもっと感度を磨く必要があります。そのためにも不正対応という考え方を身に付ける必要があるわけです。私は会計だけではなく、不正対応の知識を十分に備えることがこれからのビジネスマンにとっても不可欠な要素だと思います。
さらに経済活動の変革によって、金融商品の中には新しいものが次々に生まれています。たとえば仮想通貨は今、会計基準がないということで、意見不表明を出している監査法人もあります。しかし仮に確立した基準がなくても、いかに収益を認識して、いかに適切な開示をするかということを考えて、現時点での最良と思われる会計処理と開示の方法を提示するのが会計の専門家だと思います。

藤沼: 国際会計基準 (IFRS) は後発の会計基準ですが、基準に書かれていない事象があれば、その対応方法は今まで自分が蓄えた知識などの中からそれぞれ判断してくださいと書いてあります。書かれた基準がなければ、自ら提案できる能力を持ち、そのために必要な知識を身につける姿勢は重要です。

八田:私の大学院修士課程の指導教授、日下部興市先生が亡くなる直前に、これからの会計専門家、公認会計士は、第3の役割を持つことが必要である、ということを仰っていました。従来は監査人には批判的機能と指導的機能の2つがあると理解されていましたが、それに加えて創造的機能というのがあるというのです。その言葉が頭に残っていたことから、会計の専門家は経済活動の最先端の事項について精通できるため、新しい会計基準を創り上げていく役割を担うべきだという論文を書きました。先程、藤沼先生がおっしゃった、基準が存在しないなら自分の経験と知識から考えるという国際会計基準と同じ考え方です。

藤沼:そういうことですね。基準がないからといって停止せず、たとえば海外の基準等を参考にして考えるということが重要ですね。

八田:一般に受け入れられるためには、基準は権威のある機関が作る必要があるという面は確かにあります。それでも専門職の専門職たる所以 (ゆえん) は、自分で考えて判断できる能力を有していることだと思います。

藤沼:製造業の上場企業で、毎月の報告書の1ページ目に悪い知らせを報告させる制度を導入した経営者の例があります。内部統制の責任者である経営者にそういった感性があるのは素晴らしいですね。

八田:我が社は優秀な人材が揃っているから不正とは無縁だと思ったときから、不正対策の思考が停止するわけです。

藤沼:日本では、社内の人事のローテーションの一環として、監査部門のポジションに就くことが多いですが、海外に行くと、そこは専門職である人が多かったりします。日本では色々な部署を経験させて会社全体を理解している人材を育てようとしますが、一方、不正対策は専門的知識が必要です。会社で働く人たちが不正の問題に真正面から取り組む環境の整備を考える場合、社内での人事異動についてどう思いますか。

八田:将来の経営者予備軍は内部監査や社内全体を見通せるような部署を1回は経験すべきだと思います。そして会社がリスクを抱えていること、どこで不正が発生するのかを知っておくべきですね。

藤沼:会社を揺るがすような大規模なものは別としても、取引先との癒着や経費の使い方といったレベルの不正は、内部統制上のリスクがあるところで意外と発生していると思います。過度に細かい規則も必要ありませんが、それらを放置しておくことは許されないですね。

八田:不正問題に対処するときには、やはり、ゼロ トレランスの議論が重要だと思います。たとえば横領した金額の大小によって罪の重さは違ってきますが、すべては不正だという意識を全社的に浸透させ、そういった社風を作り上げることが必要です。

公認不正検査士 (CFE) に期待すること

藤沼:最後に、CFE への期待について伺います。公認会計士、弁護士、内部監査人で CFE 資格を取得されている方が増えていますが、2015 年のインタビューでは、専門業務を行うための資格取得はスタート ラインであり、資格取得後も自己研鑽を継続することの重要性を強調していらっしゃいます。CFE 資格を取得した方が、真に力を発揮するためにはどうすべきか、メッセージをお願いしたいと思います。

八田:まず経済社会に関わっている人たちの間で、CFE 資格の認知度をもっと上げていく必要があります。あらゆる専門職は日々研鑽して自分の能力を高めていますが、その一環に CFE の役割もあると思っています。同時に、社会で重要な役割を担っている方々に不正の知識を持ってもらう。たとえば、パートナー レベルの監査人が不正に対する知識を身につける。
また、社会に対して影響力を持った弁護士が、不正対策の知識を習得することによって、いかに自分たちの業務領域ないしは評価が高まったかも広く知ってもらう。あらゆるところで不正検査の知識を持った人たちが、社会的に大きな役割を担えているということを知らしめることが一番重要だと思いますよね。

藤沼:ACFE JAPAN カンファレンス以外でも、特に内部統制について八田先生の講義を聞きたいという会員の方が多くいらっしゃいます。ACFE JAPAN セミナーでも登壇していただきたいと思いますが、いかがでしょうか。

八田:社会にそういう要請があるならば、前向きに検討させていただきます。

第9回 ACFE JAPAN カンファレンス (2018/10/05(金) 開催予定) では、八田 進二 氏による講演「不正・最前線 ─第三者委員会は、機能しているのか?」が行われます。ご期待ください。