違反の心理学と新しい安全マネジメント
講義概要
違反をするのは一部の不良社員だけではありません。小さな違反は誰でもします。違反の要因は個人の中だけにあるのではなく、ルールの問題、管理の問題、職場風土の問題とも関連しています。
エラーや違反によって起きる事故やトラブルの対策として、多くの企業・組織が行っている安全マネジメントは、「ルールやマニュアルを決めてそれを皆に守らせる」というマニュアル主義に偏重しています。その結果、増える一方のマニュアルに、現場第一線は疲弊し、仕事意欲が低下し、小さなトラブルや違反はいつまでもなくなりません。この行き詰まりを変える可能性を持つのがレジリエンス・エンジニアリングに基づく安全マネジメントです。
本セミナーは、JRの研究所等で鉄道の安全に関わる心理学、人間工学に携わった講師が、現場第一線での経験を踏まえ、ヒューマン エラーと違反と事故の関係を整理し、次に違反およびリスク行動の心理的要因を解説します。最後に新しい安全マネジメントの考え方として近年注目を集めている「レジリエンス・エンジニアリング」を紹介し、失敗を防ぐマネジメントから成功を増やすマネジメントへの転換を提案します。
また、違反の多くはリスクを伴うため、リスク認知やリスク テイキング行動のプロセスに関する心理学研究も紹介します。
講義内容
第1部
- 1. 不正行為と違反とヒューマン エラー
- 2. ヒューマン エラーのメカニズム
- 入力エラー (知覚・認知の失敗) と対策
- 媒介エラー (判断・決定の失敗) と対策
- 出力エラー (動作・操作の失敗) と対策
- 記憶エラー (ラプス) と対策
- 注意と不注意
第2部
- 3. 違反の心理的要因
- James Reason の違反分類
- 違反の要因
- マニュアル違反をなくそうとしても
- 安全ルール違反の多発領域
- 4. 人はなぜリスクをとるのか
- リスクの大きさ
- リスク テイキング行動とは
- リスク テイキングのプロセス
- リスク テイキング行動の要因
- ターゲット・リスク
- 最適なリスク水準とは
- リスク・ホメオスタシス理論の主張
- リスク補償行動
- リスク認知と運転行動の「サーボ システム」
- リスク補償とホメオスタシス
- 仕事の誇りが安全行動を支える
- 仕事の誇りは公正な組織で育つ
- 組織的公正から安全行動へ
- 安全への動機づけを支えるものは
第3部
- 5. 安全マネジメントの現状と問題点
- 安全マネジメントの現状とその結果
- ヒューマン エラー対策の悪循環
- マニュアルの限界
- これまでの安全マネジメント(セーフティⅠ)
- 6. 新しい安全マネジメント:「失敗を防ぐ」から「成功を増やす」へ
- 安全の再定義
- セーフティⅡには柔軟な安全文化としなやかな現場力が必要
- レジリエンス・エンジニアリングの考え方
- 安全文化の 4 つの要素
- 柔軟な文化とは
- セーフティⅠとセーフティⅡの関係
- 人間の弾力性がシステムを守っている
- WAI と WAD
- 報告された失敗事例だけ見ていてはダメ
- しなやかな現場力とは
- レジリエンスの本質的 4 能力 (ポテンシャル)
- よい結果をもたらすレジリエンス行動への構造
- 現場第一線のレジリエンス行動の例
- しなやかな現場力を育てるには
- 心理的安全性
- 心理的安全性を高めるリーダーシップ行動
- ノン・テクニカル スキル
- 新しい安全活動
講師紹介
芳賀 繁 (はが しげる) 氏
株式会社社会安全研究所 技術顧問 (ヒューマン ファクター研究担当)
立教大学 名誉教授、博士 (文学)
主な経歴
1977 年、京都大学大学院 修士課程 (心理学専攻) 修了。国鉄に就職し、鉄道労働科学研究所、JR鉄道総合技術研究所で鉄道の安全に関わる心理学、人間工学の研究に携わる。1995 年、東和大学 工学部経営工学科。1998 年、立教大学 文学部心理学科、2002 年、同教授、2006年、立教大学 現代心理学部心理学科 教授などを経て、2018 年 4 月から現職。 ヒューマン エラー、ヒューマン ファクターズ、交通行動、違反の研究のほか、最近はレジリエンス・エンジニアリングの立場からの安全マネジメントの啓蒙と実践活動にも力を入れている。