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ACFE JAPAN 理事長対談 第8回
日本公認会計士協会 会長 手塚 正彦 氏に
協会としての不正防止に対しての取り組みと
これからを訊く

第 8 回の対談は、日本公認会計士協会 会長 手塚 正彦 氏をお迎えし、「協会としての不正防止に対しての取り組みとこれからを訊く」をテーマにお話を伺います。
手塚 会長は 2019 年 7 月の就任前より、「監査の信頼回復」に加えて、「会計不正の再発防止に向けての現場力の強化」を打ち出すなど、今後の協会の方向性などについてさまざまなコメントを発信していらっしゃいます。
そこで、今回は手塚会長のこれまでの経歴をふり返りながら、協会全体としてどのように不正に対して取り組んでいくのかなどについてお聞きします。(聞き手:ACFE JAPAN 理事長 藤沼亜起)

目次

中央青山監査法人の改革途上で発生したカネボウ粉飾決算事件

毛利 直広 氏の写真
手塚 正彦 (てづか まさひこ)
日本公認会計士協会 会長、公認会計士
東京大学 経済学部 卒。監査法人中央会計事務所 (1986-2002)、中央青山監査法人 代表社員 (2002-2006)、同法人 理事長代行 (2006-2007)、監査法人トーマツ パートナー (2007-2019)、日本公認会計士協会 常務理事 (2016-2019) を経て、現職 (2019-)。

藤沼:本日はよろしくお願いします。まず手塚会長ご自身の経歴を振り返らせていただきます。
手塚会長は 1985 年に東京大学経済学部を卒業後、中央会計事務所(後の中央青山監査法人)に入所されてパートナーなどを務められました。名称変更後のみすず監査法人が解散した後は監査法人トーマツに所属されるなど、現場経験についても豊富でいらっしゃいます。中央青山監査法人にいらしたときには、カネボウの粉飾決算事件も発生しました。手塚会長が経験された 2 つの監査法人での、不正対策への関わり合いや、事例・事案などがございましたら、守秘義務上許される範囲でお話いただけますか。

手塚:私が中央青山監査法人の理事に就任したのは 2005 年 10 月のことです。ちょうど奥山さん(注:奥山章雄氏。元日本公認会計士協会会長。当時中央青山監査法人代表社員)が 2005 年の正月に、社員(注:監査法人における出資者であり共同経営者。「パートナー」とも。)などを集めた席上で「このままいくとまずいから改革しないといけない」という話をされ、僕は法人改革のチームに入りました。それから、若い会計士ら何名かと僕も集められて、ゴールデンウイーク明けぐらいまで改革プランというものを作りました。

奥山さんが理事長になり、2005 年 7 月に「その改革プランをやろう」と全社員・職員に言った矢先に、カネボウの粉飾決算の件で検察の強制捜査が入って、人々の耳目を集める流れになります。
当然ながら「悠長にやっている場合じゃない」という雰囲気になり、実際、その後の 2005 年 10 月にはカネボウの監査を担当していたパートナーが起訴されます。起訴されること自体は想定されていましたので、10 月に執行部を刷新した際に、私が法人改革のプランの作成を任されていたこともあり、改革担当ということになりました。その後、業務停止命令が出たのが 2006 年 5 月です。
SEC(米国証券取引委員会)登録クライアントやアメリカの金融機関などは処分を受けた法人の監査を受けることを避けたいと考えていたため、2006 年 7 月にあらた監査法人(現:PwCあらた有限責任監査法人)が発足しました。僕は、中央青山監査法人に残り、理事長代行になりました。そのときに上場会社のクライアントでは 30% ぐらいの契約がなくなるという状況になっており、信頼回復とともにそうした厳しい経営状況にどのように対処すべきなのかが喫緊の課題でした。

不正リスクマネジメントの徹底 ─ 担当任せから法人としてのサポートへ

手塚:カネボウの件からでしょうか、不正に関するリスクマネジメントを徹底しなければならないという価値観が共有されるようになりました。当時は元財務捜査官の会計士が在籍していたので、その者とリスク管理担当パートナーを中心に据え、インテリジェンス情報として、さまざまなリスク情報を公開情報などから収集・分析していき、「どのクライアントが危ないか」、例えば「反社会的勢力との付き合いはないか」などのリスク評価に役立てました。その上で、リスクが高いと評価されたクライアントについては、財務捜査官経験者も関与させて監査チームをサポートしたり、契約解除の検討をしたりしていました。

これらの仕組みは、比較的有効に機能したという実感を持っています。一方で、不正対応という点に関して、どのように兆候をつかんで、それに対してどのような監査手続を実施するのかという現場力については、さらに強化する必要があるとも思いました。
カネボウの件では、初公判のときに監査を担当していたパートナーが検察の起訴事実を全面的に認めたことは予想外でした。それまで我々は、担当者が粉飾の事実を認識していたにもかかわらず見逃していたとまでは考えていなかったのです。
しかし、実際に担当者が検察の起訴事実を認めたことで、当時の担当パートナーのさらに前任者のときから不正の見逃しがずっと続いていたことが明らかになりました。小さな不正が徐々に大きくなって、結果的に表に出せない事態になったのだと推察できます。そのような観点からすると、個人レベルの対応だけでは交渉力も弱いため、組織的に何とかしなければならないと考え、例えば財務捜査官出身者も含めたリスク管理チームを設置したりしました。

あとは監査環境調査という取り組みを、上場会社以外も含め、ほぼすべてのクライアントを対象に実施しました。実は、これには 2 つの目的がありました。1 つは監査リスクを組織として正しく把握して監査チームをサポートすること、もう 1 つは「どの会社と付き合うべきではないのか」を把握することでした。

社会からの信用を失ったうえに 3 割の上場会社がなくなるという緊急事態ですから、普通に経営していては再建はままなりません。一方で、顧客が激減しても、経営者の責任として雇用は維持しなければなりません。そのため、監査環境調査では当然のように各クライアントの採算はすべて検証しました。それに加えて、情報開示制度および監査制度に対するクライアント側の理解や協力体制、経営者の姿勢や現場の状況といった話をパートナーからスタッフまで全員に聞いていきました。
調査結果があまりにもひどいクライアントに関しては、さらにヒアリングを重ね、監査契約を継続するのかどうかという議論までを監査チーム任せではなく、法人としてサポートするように努めました。

当然、担当者個人や監査チームの能力あるいはマインドセットといった問題もありますが、威圧的な態度をとる経営者に対しては組織的な対応が必要となるのも事実です。そうした状況への方策として、リスク管理を担当する部署を作ったこと、監査環境調査を実施したことが、中央青山監査法人での経験でした。やはり監査調書の閲覧と監査チームへのインタビューだけでは十分に把握できない実態もあり、まずは現場を知ることが大事だなということを痛感した出来事でもありました。

グループ会社で起きる多額の不正に驚く親会社

藤沼:手塚会長が遭遇した不正で印象に残るものはありますか。

手塚:僕自身はこれまで大きな不正に遭ったことがありません。ただ、これはある大企業の関連会社の話ですが、民事再生を申請するかどうかというレベルまで経営が悪化した会社があり、その経理責任者から「このような(不正な)会計処理はいかがでしょうか」と相談されたことはあります。
当然、それは認められないものでした。しかし、業績の悪化や諸般の事情で企業がそういうことを考える場合はありますので、それにどう対処すべきかということを改めて学んだ出来事でした。
また、大きな企業グループの内の、会計監査を受ける必要のない子会社の問題から、「こんなにも多額の不正が出るものか」と驚かされた事例もありました。つまり、グループの事業会社に関して「親会社の人たちも十分に理解していない」、「モニタリングが十分にできていない」、「監査人も個別検証の範囲に含めておらず、多くの時間を割けない」という状況下では、多額の不正が起こっても不思議ではないということです。

33 年の監査法人勤務の間には、いくつかの大きな会計不正事件の調査を担当したことがあります。そこで重要だと感じたことは、会計基準や監査基準だけに精通していてもダメだということです。経営者をはじめ企業内部のあらゆるポジションの人たちが何を考え、どのような行動を起こそうとするのかについて理解していないと、不正の兆候があっても見落としてしまい、その実態になかなか気付きにくいものです。

不正発見に関する結果責任を問われている監査人

藤沼 亜起 氏の写真
藤沼亜起 (ふじぬま つぐおき)
日本公認不正検査士協会 理事長 (2018/6-)、公認不正検査士 (CFE)、公認会計士
国際会計士連盟 (IFAC) 会長 (2000-2002)、日本公認会計士協会 会長 (2004-2007)、IFRS 財団 評議員会 (Trustees) 副議長などを歴任。

藤沼:日本公認会計士協会では、2019 年 7 月に経営研究調査会研究報告第 65 号『近年の不正調査に関する課題と提言』を公表されました。この研究報告では、同第 51 号『不正調査ガイドライン』の趣旨を再確認するとともに、公認会計士が不正調査を行う際の課題や、問題がある不正調査に対する提言、不正調査と財務諸表監査の相違点、不正調査業務に関するアンケートなどがまとめられています。
公認会計士も今後これまで以上に不正に向き合うスキルが求められると考えられますが、会長として、今後会計士の不正防止スキルの育成や、それを行う人材の育成などについて、どのように考えていらっしゃるかをお教えください。

手塚:重大な不正会計が発覚すると、株主をはじめとする利害関係者に多大な損害を与えることになります。日本を代表するような大企業で不正が発覚すると、株式の時価総額が数千億円規模で下落することになります。重大な不正事件によって、そうした社会的損失が発生するという自覚を、まずは企業経営者が持ち、そして監査人も持たなければならないと思います。
会計士は大手の監査法人などに所属していると、厳しい独立性のルールを遵守しますから、株式を保有できないので、直接実害を受けることがありません。つまり、資本市場にお金を預けているアセットオーナーの痛みを十分に理解し難い人が監査を行っているとも言えます。そのため、資本市場に対する信頼を維持する観点からも、より一層の自覚を持たなければならないというのが前提といえるでしょう。

藤沼:確かに、その自覚は会計士にとって重要ですね。

手塚:また、示唆に富む資料として『近年の不正調査に関する課題と提言』があります。これは公認会計士が不正調査を業務として行う場合を想定しており、会計監査を行うケースとは異なりますが、相通じるところはあると思っています。
内容としては「問題がある不正調査に対する提言」、「倫理面及び調査体制・計画管理の問題」、「調査手続及び調査結果の検討における問題」、「要因分析及び是正措置等の問題」から構成されています。
会計監査は「不正の発見が第一の目的ではない」と言いますが、重大な不正を見逃してはならないのは当然のことであり、監査人には、事実上不正発見に関する結果責任を問われる覚悟が必要です。研究報告第 65 号を大いに参考にして、研修・育成に生かしていく必要があるだろうと考えます。
特に不正の早期発見には現場力が重要ですので、会計士協会の CPE(継続的専門研修)で公認会計士に不正事例研修の受講を義務付けています。不正事例研修では、公認不正検査士の方や警察大学校の先生にも講義をしていただいており、研修のレベルはずいぶん上がっていると思います。
ただ、人間には、自分自身が窮地に陥らないと、普段の自分の業務に直結することだと実感できない面もあります。現実に不正に直面して大変な思いをした会計士は懐疑心を発揮できると思いますが、そうでない人にとっては、どうしても他人(ひと)ごとに思えてしまう面は否めません。研修等を通じて、これをどう克服するかが鍵です。

藤沼:有名な企業や大企業だからということで、不正が起こらないという前提で監査業務を実施しているような印象を受ける場合もありますね。

手塚:はい。監査の知識は誰でも身に付けられると思いますが、実際に監査をするときには職業的懐疑心を発揮できるかどうかが重要ですね。結果として「懐疑心が発揮できていなかった」と評されるケースが数年に一度は発生しており、大きな事件に発展することも少なくありません。そうした事案を根絶するにはどうしたらよいのかということが現在の悩みどころです。

不正発見のための教育と公認不正検査士資格

藤沼:公認会計士試験合格者の実務補習(注:公認会計士登録要件のひとつで、3年かけて会計、監査、経営、税、IT、職業倫理などを学ぶ。)では、不正に対する懐疑心について、どのように教えているのか気になりました。この点についてはいかがでしょう。

手塚:実務補習所では監査業務審査会の「監査提言集」を相当の時間を掛けて解説しています。また、IT リスクも含めた不正リスクに関する研修を実施しています。例えば、先ほどの話にもありました資本市場の仕組み、国民の富を形成する最も重要な基盤としての資本市場の機能、そして、資本市場における情報開示の信頼性を担保する公認会計士の役割について。これらの解説は、東証の上場部長をはじめとする方々にご担当いただいています。一方で、会計士の職業的懐疑心に関しては、八田進二先生による職業人としての倫理観に関する研修などがあります。

今後は、不正の実例に即しながら「不正をどのように発見するか」、「不正の発生時にどのように対処するか」といったステージごとの研修も充実できればと考えています。その際には、日本取引所グループが公表する「上場会社における不祥事予防のプリンシプル」や「上場会社における不祥事対応のプリンシプル」のような体系化された資料も参考になるでしょう。
それを前提として、「われわれ公認会計士は極めて重要な仕事をしている」からこそ「職責を確実に全うしなければならないのだ」という自覚を持たせることまでをパッケージにして、補習所のカリキュラムに組み込むことが必要ではないかと思っています。

また、IT 技術をどのように活用するかということは非常に重要です。人間の情報収集能力や分析能力には限界があるため、会計に関するデータが企業内にこれだけ膨大にあると、IT 技術を使って収集・分析することは不可欠と考えます。今は、将来の会計士に必要な資質をどのように定義したらよいのかということも併せて検討しているところです。

手塚:公認不正検査士協会の皆さんには、公認会計士協会の機関誌にも寄稿していただいて感謝しております。2019 年時点では、大手監査法人に所属している公認不正検査士 (CFE) の方が 130 名程度にとどまっているということもあります。

藤沼:これはもっと増やさなくてはなりません。

手塚:公認会計士全体で公認不正検査士の資格を有する人が約 400 名ということですが、どちらかというと一仕事を終えた OB の人が資格を持っているケースが多いですね。

藤沼:私もCFE資格を取得しました。公認不正検査士の手法を知ってみると、法律制度の違いだとか、不正調査やフォレンジックの手法だとか、インタビューの実施方法などについて「ああ、なるほど。そういうことがあるのか」という新たな発見があります。それにより不正に対するセンシティビティ(感度)が増すような感じがしています。だからぜひとも、会計士の皆さんにも新たな資格に挑戦してもらいたいなと思います。公認会計士協会の会長には率先して取得していただきたいですね。

手塚:まさに今おっしゃったように、自らを省みると、質問のスキルなどが稚拙な場合もあるかもしれません。また、資格者としてのプライドが邪魔して、相手が言ったことは「すべて知っている」というように振る舞ってしまうケースがあるようにも思います。知らない振りをして「それって何ですか? どうなんですか?」と聞いた方がいい場合もありますよね。意識の問題もありますが、公認不正検査士の皆さんみたいに技術として「どうしたら相手が本音をしゃべるのか」という観点でも、適切にスキルの向上を図らなければならないと考えております。

手塚会長が掲げる「監査の信頼回復」と「現場力の強化」

藤沼:2015 年には大手企業による巨額の会計不正が発覚するなど、近年、会計不祥事が相次いでいます。手塚会長は就任前の会見などで「監査の信頼回復」について発言していらっしゃいます。不幸にも発生してしまった不祥事に対して、どのように信頼を回復させるかというのは非常に重要なテーマであると考えます。また、信頼回復には「監査の『現場力』の強化」が重要であると打ち出されています。公認会計士協会としてこれらについて具体的にどのように取り組まれるのか、そして、これらを会計不正の再発防止にいかに役立てるのかという点について、お話しいただけますか。

手塚:東芝の事件があった後に、金融庁の「会計監査の在り方に関する懇談会」において提言がなされました。その提言に対する施策については、仕組みや制度の面でほぼ完了していると考えています。
ただ、残されていることが 2 つあると思っています。1 つは監査法人のローテーションの問題です。もう 1 つは監査情報充実懇(金融庁「会計監査の情報提供の充実に関する懇談会」)で触れられている、守秘義務の解除の話です。これらについては継続的な検討課題と考えています。

それ以外の対応策がほぼ確立している部分について、「現場でいかにそれを生かしていくか」という観点で「現場力」という言葉を使っています。つまり、現場力とは、問題発見から解決に至るまでの「サイクルをどう回すか」というテーマだと考えているのです。財務諸表の開示でいうと、「適正な開示をしなければならない」というのは会社のあるべき姿ですが、実態は必ずしもそれが実現できているわけではないでしょう。
会計処理を間違う場合もあるし、内部統制が確立されていない場合もある。意図的に不正が行われる場合もあります。そうした状況で、現実に何が起こっているのかを正しく認識して、問題を発見して、経営への影響を評価して、質的・量的に重要なものは原因を究明して、原因が分かったら課題設定をして、解決の方向性を見出して、顧客を説得して、解決に導くというプロセスが必要です。
しかし現実には、会社の不備を発見して、一応「こうしましょうね」とマネジメントレター(監査法人から経営者に向けた報告書)に記載するものの、何年も要改善事項として残り続けているというケースがあるのではないでしょうか。金額的に重要な影響が生じていないから顕在化していないだけで、問題自体は実際に起きているかもしれません。監査人という立場であれば、もう一歩進んで、独立性が許す範囲で問題の解決を助けてあげられたら、これができれば、極めて優秀な会計士だと評価されると思います。

不正の兆候の発見のために会計士や監査チームができること

藤沼:先ほどの話題に戻りますが、資本市場における株価の下落といった事象を公認会計士はあまり気にしていませんよね。

手塚:あまり気にしていなかったというのが実情かもしれません。もちろん会社が保有している株式の時価の下落は、金融商品の減損処理があるから把握していますが、その会社自体の株価の動きを見て、その変動が経営にどのように影響を与えるか常に注意している会計士は多くはなかったように思います。最近は株価連動報酬を導入している企業も多いことから、自社株式への影響は直接的な不正のインセンティブになりえます。不正が発覚すれば、株価が下落し、投資家や企業の関係者がどれだけの損害を受けるのか、会計士はよくよく自覚して監査をする必要があると思います。

藤沼:それでは、不正の兆候の発見はどうすべきでしょうか。例えば IT 技術の活用では、データ分析のインフラを整備することにより「この数字がおかしいよ、このトレンドは異常だよ」と、ある程度のリスク項目を検出してくれて、それを監査チーム全員で「これは何だろうか」「追加手続を実施しないとまずいのではないか」と議論をするアプローチは有効ですよね。

手塚:そのとおりです。現在の IT 監査技術や AI による分析は非常に精緻で、アウトプットもとても分かりやすく可視化できるようになっています。そうすると、その分析結果をもって監査役や社外取締役、あるいは経営執行サイドにもリスクを分かりやすく見せられるのですね。そうしたツールを自社で持っている会社は少ないので、それを見せることにより、従来は見過ごされていた不正の端緒に気付くことも十分考えられます。

藤沼:そういう意味では、経営者ディスカッションとか監査役とのコミュニケーションにおいても、IT 技術を活用できれば、そのようなときの議論に一役買いそうですね。

手塚:ただ、監査における IT 技術の活用には、現状において一定の限界もあります。例えば、企業側の IT プラットフォームが子会社との間で統一化されていないなどの問題があると、限定的な範囲にしか使えません。
また、会計データとして取り込まれた会計システム内の情報なら全部を見ることができますが、そこに至る上流の業務システムが統合されていないために、上流のデータまで見ることができない場合も多いです。
最近、会社の方には必ず「会社と監査人は資本市場の信頼性を支える両輪ですから、監査人も努力しますので、会社側でも対処してください」と言っています。会長に就任後、インタビューや寄稿を依頼される機会が多くなりましたが、必ず会社側へのお願いも入れるようにしています。常に、「監査人はどうすべきか、また、会社はどうすべきか」という双方の議論にしていかないと、本当の意味での不正防止は達成できないと思うのです。

会長として取り組みたいこと、公認不正検査士協会に期待すること

藤沼:最後に手塚会長からお話をされたいことはありますか。私ども公認不正検査士協会としても公認会計士協会と連携を深めつつ、お互いに刺激を与えられるような関係を目指していきたいと考えています。手塚会長が公認会計士協会として公認不正検査士に期待していることなどをお話しください。

手塚:実は今、構想がありまして、公認不正検査士の皆さんにはさまざまな研修などでぜひご協力いただきたいし、監査法人にも監査チームの中にも、公認不正検査士のような専門家に入っていただきたいと考えております。
それからもう 1 つは、監査における現場力の強化についてです。これは僕の構想段階ですから実現できるかどうかはまだ分かりませんが、公認会計士協会が学会と、監査法人等と監査の現場力の強化について共同研究して、成果物を世に問うというプランです。研究が実現すれば、公認不正検査士協会の不正に関する知見も、ぜひ組み込みたいですね。

企業側の内部監査人や監査役等とも連携して、外部監査人の現場力の強化について再考してみることも有用と考えています。そのような連携は、われわれの業界と企業側の両方にメリットがあるのではないかと思います。

藤沼:そうですね。そうした取り組みは実施していった方がよいと思います。日本の内部監査は組織上の制約があって、監査メンバーの皆さんは懸命に業務を遂行しているのですが、現状ではあくまで「Reported to the President(社長への報告)」なんです。そのため、例えば社長が「余計なことを言うな」と言ってしまえば、内部監査は「じゃあ、そういうことはやりません」という話になります。
海外では内部監査部門といえば「Report to the Chairperson of the Audit Committee(監査委員会議長への報告)」であり、その辺りの組織構造が異なります。そうした面を考えると、組織設計についての啓発的な教育もやっていかなければならないのではないかと感じますね。

今日はどうもありがとうございました。

手塚:ありがとうございました。