#23 不正実行者はどこから生まれるか? 遺伝などの生物学的要因か? 環境などの社会学的要因か?

What are the various models that attempt to explain Fraudsters ?
Are the roles that biological or sociological factors ?

不正が実行されるまでの 3 要素を表す「不正のトライアングル」は、広く知られている。ご存知の通り「動機 (プレッシャー/インセンティブ)」「機会」「心的態度/正当化」である。

しかしながら、その 3 要素が揃ったとしても、不正を実行する者もいれば、悪事には手を染めず真っ当に生きる者もいる。この差は何に基づくのだろうか。

 

今回は、犯罪学コラム「#02 ロンブローゾ、犯罪者と体格 (骨相学)」から延長させて、不正実行者や犯罪者の根源について考えてみよう。

 

犯罪者の根源については、多くの研究者が様々な分野から研究している。

古くは、逸脱行動や粗暴行為の由来について、生物学的な視点や社会学的な視点から解明が試みられてきた。この研究は、criminogenic involvement と呼ばれ、犯罪を誘発する要因を明らかにしようとするものである。

 

これまでの研究によると、その根源としては、大きく分けて 2 つ、「遺伝などの生物学的要因」「環境などの社会学的要因」が挙げられている。

 

犯罪行為の定義 - Definition of Criminal Actions

まず、犯罪行為の定義を行う。

Bartol (2011)[1] によると、犯罪は「法律の禁止または命令に違反する行動または行為」として定義され、いわゆる違法行為・不法行為とよばれるものを対象とする。

 

生物学的要因 - Biological Factors

脳のイメージ画像

#02 ロンブローゾ、犯罪者と体格 (骨相学)」でも説明したが、犯罪行為の由来で最初に検討されたのは生物学的な要因である。

次のような分野から、犯罪行為の由来が研究されている。

  • 生物心理学
    生物心理学は、心理学の中でも、行動の生物学的な部分に注目し、遺伝的あるいは神経生理学的な要素が犯罪行為をもたらすと考える。
  • 分子生物学
    分子生物学は、発達や行動に影響を与える特定の遺伝子や物質 (DNA や分泌物質など) に注目する。それらをベースに犯罪行為の根源を見出そうと試みる。
  • 脳神経学
    脳神経学は、脳神経や脳機能に注目する。それらの不全が犯罪行為をもたらすと考える。脳の不全と深刻な暴力的行動には強い関連性があるとする研究もある。

 

生物学的要因に注目した近年の研究に、興味深いものがある。この研究は、スウェーデンのカロリンスカ研究所、カナダのオタワ大学、イギリスのオックスフォード大学の共同研究チームにより行われ、2015 年 4 月に国際疫学学会誌の論文で発表された。

スウェーデンで 1973~2009 年にかけて性犯罪で有罪となった男性 21,566 人について調査したこの論文[2]は、次のように結論付けている。

  • 同じ環境で育った異父母の兄弟などと比較して、血の繋がった親に性犯罪歴がある子どもは性犯罪を犯す確率が高い。
  • 性犯罪歴のある人物の実の子どもが性犯罪を犯す確率は平均の 5 倍に上る。
  • 異父兄弟が性犯罪を犯す確率は 2 倍にとどまる。

 

研究チームのひとり、オックスフォード大学のシーナ・フェゼル氏は、この結果について「環境がすべてではなく、遺伝的な要因は存在する。これはささいなこととは言えず、遺伝的要因を排除してはならない」([3] より引用) と述べる。ただし「遺伝的傾向があるからといってその人物が確実に性犯罪者になるわけではなく、どの個人も性犯罪を起こすリスクは低い」(同)

 

社会学的要因 - Sociological Factors

人々のシルエットが並んだイメージ画像

一方、犯罪行為には犯罪者と環境との相互関係が影響しているのではないかと考えた研究者たちは、社会学的要因に目を向けた。

社会学的要因とは、生まれてから犯罪行為に至るまでに本人が置かれた環境などを指し、次のような要因が挙げられる。

  • 生い立ち
    貧困・性差・教育などの問題、培われた偏見、家族・親族・人付き合い (仲間) との関係、反社会的勢力 (ギャング、暴力団、半グレ、暴走族など) との関わり、など
  • 精神的要因
    自分・家族・親族・恋人・友人・知人や第三者が受けた仕打ちに対する感情、など
  • 社会的学習
    他者の観察を通じた学習

 

たとえば、貧困で食うに困った者は強盗や窃盗を行うかもしれないし、反社会的勢力に身を置いた者は (そのような意図を持たなくても) 犯罪行為が生業になるかもしれない。自分や仲間が何らかの被害を受ければ怒りで (報復とは別の) 犯罪行為に走るかもしれないし、誰かの犯罪行為を見て自分も模倣するかもしれない。

 

社会学的要因が着目された理由は、社会学的要因が個人の立場ではコントロールできない点にある。

特に、社会環境から行動や思考などを学ぶ幼少期から独り立ちするまでの期間は、ほとんどの場合、親や先生などの他者の意向で環境が定められてしまう。そこには自発的な選択の可能性さえほとんどない。

 

まとめ

生物学的要因説からは、犯罪者の子は犯罪者という極論が導かれる。しかしそうではない。また、犯罪者ではない親の子が犯罪行為に至る理由も説明ができない。それは顔付きや体格からの説明でも同様である。

社会学的要因説からは、犯罪者と同じ環境で育った者は犯罪者になる (犯罪行為に至る) という極論が導かれる。だがこれもそうではない。

 

しかしながら、それぞれの立場にはそれぞれの根拠があり、生物学的な要因と社会学的な要因とが関係して犯罪行為に至ると考えられている。また、生物学的な要因と社会学的な要因との間には何らかの相互関係があると結論付ける研究も存在する。

凶悪犯や粗暴犯と不正実行犯 (ホワイトカラー犯罪者) などの知能犯とでは、それぞれの要因の影響の度合いは異なる可能性もあるが、現時点でははっきりと分かっていない。

(株式会社ディークエスト ホールディングス 公認不正検査士 山本 真智子)

参考文献・引用元

  1. Bartol, C and Bartol, A (2011).
    "Criminal Behavior: A Psychological Approach 9th (nineth) edition"
    Upper Saddle River, NJ: Pearson Prentice Hall
  2. Niklas Långström, Kelly M Babchishin, Seena Fazel, Paul Lichtenstein and Thomas Frisell (2015).
    "Sexual offending runs in families: A 37-year nationwide study."
    International Journal of Epidemiology, Apr 2015, 44(2): 713-720
    https://doi.org/10.1093/ije/dyv029
  3. CNN.co.jp:性犯罪には「遺伝も関与」 疫学研究者
    https://www.cnn.co.jp/fringe/35063021.html
  4. Berger, M (2012).
    "Week 1 study guide: Criminal Behavior Developmental and Biological Risk Factors, and the Police and Investigative Psychology."
    A lecture materials of Boston University.

 

このページで使用している素材について

  • このページでは、写真AC で提供されている素材を使用しています。

 

犯罪学コラム 一覧へ