#21 放火と不正

今回は、会報誌 FRAUD マガジン VOL.60 の記事「命取りとなる、放火と不正の結合 (Arson and fraud mix in a deadly combo)」を絡めて、放火と不正の関係について取り上げよう。

なお本稿は、会報誌をお持ちでない方々にも配慮している。

Arson and Fraud ?

放火と不正? 何の関係があるの? と首を傾げる方も多いだろう。

放火の調査と不正の調査には類似点が多く、たとえば放火の疑いが強い事件において、放火調査官は不正検査士が調査を行うように、なぜ犯人は罪を犯したのか (放火をしたのか) について、犯罪学的・法科学的な (鑑識の) 観点から考察する。

 

言い換えるなら、放火が疑われる事件にあたる放火調査官は、その全貌を暴くために「動機」の理解と理論の構築から着手する。これは不正検査と同じである。(「動機」については「#19 「不正のトライアングル」構成要素のひとつ「動機」について」で取り上げているのでご覧いただきたい。)

放火について (About Arson)

Bartol によると、放火とは「故意かつ悪意のある、財産の燃焼。家屋、公共建物、車等、個人的財産を含む」(p.463 より著者拙訳) とされ、Bartol および FBI の犯罪分析マニュアルでは、その目的として次の 6 分類が挙げられている。

  • 怨恨や嫉妬などによる復讐
  • 悪意を伴う破壊
  • 犯罪隠蔽や偽装工作
  • 利益や保険金を得る経済的目的
  • 脅迫、強要、テロリズムなどの政治的目的
  • 火・炎への強い執着や興奮による快楽目的

Bartol (pp.466-467)、FBI 犯罪分析マニュアル、などから筆者まとめ

 

自らの利益を得るための放火は、ほとんどの場合「経済的目的」による。しかし、厳密には「犯罪隠蔽や偽装工作」を含めてもよい。なぜなら、横領など自らの犯罪の証拠を隠蔽するために放火という手段を取る犯罪者もいるからだ。

保険金目的の放火犯が引き起こした大惨事
(The Disaster was caused by Insurance Fraud)

FRAUD マガジンの記事では、女性放火犯が知人を用いて自宅に放火した事件が取り上げられている。

この事件では、放火により大きな爆発が発生し、隣人 2 名が死亡、半径 2 ブロック内にある建物のうち、32 軒を危険な状態にし、そのうち10 軒に大きな被害を与えた。その総被害額は見積もりで 440 万ドルを超えた。

 

爆発時、女性とその家族、そして飼っているペットは自宅にいなかった。

運良く難を逃れたとも言えるが、そのあまりにできすぎた状況に疑いを抱いた調査官が調査を進めると、不可解な点が次々に判明する。

まず、休日に爆発が起きたこと、次に、当日の数週間前から、本人と家族のみならず、ペットまでもが不可解な不在を繰り返していたこと、そして最後に、火災発生時は建物内の見通しが妨げられていたこと、である。

 

また、経済面での調査で、女性は破産申請しており、無担保のクレジット カード ローンを抱えながらも、自宅の市場価格が債務の合計額を大幅に下回っていたことも明らかになる。

さらに、爆発の直前に女性の自宅で目撃された女性の知人たちが、過去に多数の不正や詐欺に関与していた事実も暴かれる。

 

最終的に女性も含めて放火犯の全員が有罪となったが、事件の傷跡は大きい。

 

不正と同じように放火においても実行までには兆候があるが、背景に経済的な目的がある場合、その調査に不正検査士の手法も活用できるのである。

(株式会社ディークエスト ホールディングス 公認不正検査士 山本 真智子)

参考文献

  1. L. Christopher Knight, 大井 太 (翻訳).
    「命取りとなる、放火と不正の結合 (Arson and fraud mix in a deadly combo)」
    January/February 2018, FRAUD マガジン Vol.60, 日本公認不正検査士協会 ACFE JAPAN, pp.2-7.
  2. John, E. Douglass, Ann, W. Burgess, Allen, G. Burgess, Robert, K. Ressler (2006).
    Crime Classification Manual: A Standard System for Investigating And Classifying Violent Crimes. Second Edition.
    Jessey-Bass.
  3. Bartol, Curt R. and Bartol, Anne M. (2011).
    Current Perspectives in Forensic Psychology and Criminal Behavior (Edition 3).
    Thousand Oaks, CA: Sage Publications, pp.463-469.
  4. Ronald M. Holmes, Stephen T. Holmes, 影山 任佐 (翻訳)
    「プロファイリング ―犯罪心理分析入門」(1997/6, 日本評論社)

 

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