#20 スタンフォード監獄実験に学ぶ、企業不正

Stanford Prison Study with Corporate Fraud.

今回は、スタンフォード監獄実験 (別名:Zimbardo's Prison Study, ジンバルド監獄実験) を取り上げる。この実験は、心理学や犯罪学でよく取り上げられるため、ご存知の方も多いことだろう。

 

この実験は大変興味深いもので、犯罪学的な視点、倫理的な視点と、両方の視点から企業不正を考察できる。

今回は、このうち「犯罪学的な視点」から解説する。

 

結論から述べると、この実験は、上下関係や権力が人格を崩壊させるということを証明した。

 

普通に生活する人でも、肩書きや地位を与えられると、その役割に合わせて行動が変化していき、最終的には与えられた役割を果たすかのような行動様式を取るようになる。

ときには、あなたの会社の隣に座る人がそのような作用で犯罪者となることさえある、という事実を表している。これは非常に怖いことである。

 

では、実験の内容を具体的に説明しよう。

スタンフォード監獄実験 (Stanford Prison Study)

この実験は、1970 年にスタンフォード大学で、社会心理学者 Philip G. Zimbardo, Ph.D (フィリップ ジンバルドー博士) の指導により行われた。

 

まず、実験の被験者に応募した学生 70 名から 21 名が選別され、そのうち 11 名を看守役、残りの 10 名を囚人役に分け、スタンフォード大学の地下実験室に設けられた実際の刑務所を模した施設に収容し、それぞれの役割を演じさせた。

また、必要最低限の食事、水、寝床などが与えられ、また、医療機関、カウンセリングなどへの受診も許可されるという条件で実施された。

 

看守役には、囚人役に表情を読み取られぬようにサングラスを着用させ、囚人役には、犯罪者が服役するまでを再現すべく、パトカーを出動して逮捕し、指紋採取など収監時の手続きもすべて実施した。

 


上:囚人役が看守役に掴み掛かると......
下:看守役は激昂し、手にした警棒で思い切り囚人役に殴り付ける
©2015, IFC Films (映画 "STANFORD PRISON EXPERIMENT" OFFICIAL TRAILER より)

この実験は、2 週間の予定で開始される。

 

5 日目。囚人役のうち 5 人が極度のストレスを訴えたために解放せざるを得なくなった。

 

6 日目。実験前はただのクラスメートだったはずの看守役と囚人役が、あたかも本物の看守と囚人であるかのような激しい虐待行動を取るようになっていた。

看守役は、囚人役が見せる不安を狙って暴力的な振る舞いを行うようになり、囚人役は、不安を見せるばかりでなく泣き出す始末で、いずれも実験前の状態へと戻すためにカウンセリングが必要な状態だった。

 

この時点で、これ以上の継続は危険とされて、実験は打ち切られることとなる。

ただの役割にすぎないはずの相互関係が、もはや非人格化すらもたらしていたのだ。

非個人化 (Depersonalized)

強い権力を持つ看守役を与えられた人間と、隷従させられるばかりでまったく権力を持たない囚人役を与えられた人間が、限定された空間内に置かれると、次第に歯止めが利かなくなり、暴走し始める。

 

スタンフォード監獄事件で着目すべき点は、それぞれの立場の違いが個人の有する性格や人格を上回り、特定の振る舞いを促すというところである。

これを「非個人化 (Depersonalized)」という。

 

実験中の様子:壁に手を突いて整列する囚人役と、その様子を見る看守役
©1999-2018, Philip G. Zimbardo (Stanford Prison Experiment ( PrisonExp.org ) より)

この作用は、狭い刑務所でのみ起きるものではなく、職場のような場所でも生じうる。上司、部下、同僚、取引先のような仕事上の関係が固定された状態で毎日が繰り返されており、その関係が個人の振る舞いに影響を与えるのは想像に難くない。

つまり、企業内で強い権利を持つ経営者や管理職のような者は、正しい倫理観・価値観で自らを律し続けないと、いずれその関係性から本来の自分では取り合えないような振る舞いを取り兼ねないのである。

 

皆さんの職場にいる人、いや、皆さん自身も、そのような影響を受けていないだろうか?

是非とも一度、確認してみて欲しい。

(株式会社ディークエスト ホールディングス 公認不正検査士 山本 真智子)

参考文献

  1. Mary Ellen Mastrorilli (2012).
    Week 1 Study Guide: An Introduction to the Discipline of Research.
    http://vista.bu.edu/webct/urw/tp0.lc5116011/cobaltMainFrame.dowebct [注:一般には公開されていません]
  2. Peter B. M. Vranas (2009).
    "Against Moral Character Evaluations: The Undetectability of Virtue and Vice"
    The Journal of Ethics, September 2009, Volume 13, Issue 2-3, pp.213-233
    http://dx.doi.org/10.1007/s10892-009-9054-2
  3. Candace L. Upton (2009).
    "Virtue Ethics and Moral Psychology: The Situationism Debate"
    The Journal of Ethics, September 2009, Volume 13, Issue 2-3, pp.103-115
    http://dx.doi.org/10.1007/s10892-009-9049-z
  4. George M. Slavich (2009).
    "On 50 Years of Giving Psychology Away: An Interview With Philip Zimbardo"
    Teaching of Psychology, Vol.36, pp.278-284
    http://dx.doi.org/10.1080/00986280903175772

 

犯罪学コラム 一覧へ