#13 ホワイト カラー犯罪と一般犯罪

ホワイト カラー犯罪 (White Collar Crime) については、過去のコラムでも度々 (第 3 回第 12 回で) 取り上げているが、今回は、多くの方にとって馴染みがないであろう"ホワイト カラー犯罪"が、その他多くの犯罪とどのように違うのかについて説明する。

White Collar Crime vs Violent Crime (ホワイト カラー犯罪と一般犯罪)

Crime (犯罪)
  • Violent Crime (凶悪犯罪)
    暴力を伴う。生命上・身体上の被害がある。
    例:殺人、強盗、強姦、暴行、DV (Domestic Violence)(家庭内暴力)、虐待、など
  • Non Violent Crime (非凶悪犯罪)
    暴力を伴わない。生命上・身体上の被害がない。
    例:窃盗、横領、詐欺、マネー ロンダリング (資金洗浄)、贈賄路、賭博、売春、違法薬物、放火、密売買、など

まずは、右の表をご覧いただきたい。"犯罪"を大きく二分すると、"凶悪犯罪"と"非凶悪犯罪"に分類できる。

"凶悪犯罪"とは、殺人・強盗・暴行など、暴力的で、人に対して生命上の、あるいは、身体的な被害がある犯罪を指し、"非凶悪犯罪"とは、詐欺・横領など、主に財産や信頼関係を毀損し、一般的に、そこには暴力の行使や身体的被害の発生がない犯罪を指す。

"ホワイト カラー犯罪"は、非凶悪犯罪のうち、財産や信頼関係にターゲットをおいた犯罪に属する。ここに含まれている"カラー"は"色"(Color) ではなく"襟"(Collar) を指し、"ホワイト カラー"で白襟、すなわち、白シャツ (と背広) をまとう労働者を表す。彼らの大部分は、頭脳労働の職種に就いており、社会的・経済的な地位が高く、行政府関係者や専門家も多い。"ホワイト カラー犯罪"とは、そのような立場の者が、自らの地位や権限を悪用して"職業上において行う犯罪"であり、現代型犯罪とも言われている。

 

この"ホワイト カラー犯罪"という言葉は、1930年代、米国の社会学会でサザランド (Edwin Sutherland) という社会学者により、"ホワイト カラー犯罪"が概念化・細論化されたことにより登場した。サザランドは、"社会から脱落した人々が犯罪を行う"とする旧来の犯罪者観に対して、"ホワイト カラー"と称される社会的に信望を有する高い地位にある者が、その職務の過程において、社会的に大きな害をもたらす逸脱行為を行っている事実を明らかにした。ここから、サザランドは"ホワイト カラー犯罪の父"と呼ばれるようになった。これについては、第 3 回のコラムで取り上げているのでご覧いただきたい。

 

ホワイト カラー犯罪の一例として、次のようなものが挙げられる。脱税、偽造、マネー ロンダリング、詐欺、贈収賄、カバー アップ (損失隠し・損失飛ばし)、横領、セクハラ、パワハラ、独占禁止法違反行為、虚偽広告、テレマーケティング (電話による詐欺行為)、サイバー クライム (ネット犯罪)、など。財産や信用を毀損するものが多いが、パワハラやセクハラなども自己の地位や権限を利用する現代型犯罪の一種であるため、ホワイト カラー犯罪に含まれる。

ホワイト カラー犯罪と一般犯罪の違い

ホワイト カラー犯罪と、一般的に言われている犯罪 (以後「一般犯罪」とする) が、どう違うのかについて考察する。

 

おおまかな特徴を挙げると、次のようになる。

一般犯罪は、暴力的・視覚的 (見て犯罪と判る = 実体的) で、被害者が明確であり、被害状況の把握が容易である。それに対して、メディアが作り上げるホワイト カラー犯罪のイメージは、どちらかと言えば、一般社会において"犯罪"として見えにくく、殺人事件が起きたときのように警察による初動捜査が行われることもなく、社会的な危険性という観点ではあまり重視されていない。

 

これらについて詳解しよう。

 

一般犯罪は、英語で Violent Crime (暴力を伴う犯罪)・Street Crime (街路上で行われる犯罪) と称されるように、暴力的であり、身体的な被害を伴う犯罪である。また、犯罪行為をひとつの出来事として捉えた場合に、印象的・強烈であり、見た目でも明らかであるため、道義上の逸脱、または、法的な違反が行われていることが容易に理解できる。加えて、被害者が明らかであり、被害者の苦しみや被害の状況も把握が容易である。

 

メディアが作り上げるホワイト カラー犯罪へのイメージは、最近でこそ、その傾向が変わりつつあるが、どちらかと言えば"犯罪"としての認識が希薄となりがちである。これは、ホワイト カラー犯罪がニュースやメディアに取り上げられていないということではなく、多くの場合、目を引くようなセンセーショナルな見出しを付けてホワイト カラー犯罪を取り上げたとしても、大衆の多くは、それを実に"クール (Cool)(冷静) に"見れるということである。連続殺人が発生している、というニュースと比較してみるといい。自分が渦中の企業にいる場合は別だが、自分と直接の関係のない会社がどんなに不正を働いていたとしても、連続殺人に比べるとどこか他人事のように感じるだろう。

 

また、ホワイト カラー犯罪の一部は、犯罪行動ではなく、積極的なビジネス活動の一部として捉えられている、という点も見逃せない。そのような場合は、不祥事として発覚するなどして企業が批難される状況に陥るか、隠しきれないほどの業績悪化により通常であれば到底行わないような従業員解雇や一時帰休が発端となり、そのときに初めて犯罪が行われていたことが明るみに出る。

 

さらに、警察・検察などの法執行機関の対応や、量刑にも違いがある。大抵の一般犯罪は、通常、警察や公式な法執行機関が活動し、犯人逮捕に至り、裁判過程を終え、刑罰というプロセスが行われる。しかし、ホワイト カラー犯罪に対しては、犯行現場の初動捜査は行われない。また、ホワイト カラー犯罪は、人を身体的に傷付けることがなく、被害者も特定の者である場合が多いため、社会的危険性という点から重く罰する必要がないと捉えられているように感じる。

 

以上がホワイト カラー犯罪と一般犯罪の違いである。

しかしながら、文化的に成熟し、凶悪犯罪に対する治安が向上した現在、インターネットという地理的な制約を受けない新たな活動領域ができたこともあり、私達にはホワイト カラー犯罪が身近なものとなりつつある。オレオレ詐欺 (振り込め詐欺・母さん助けて詐欺) に始まり、詐欺広告、詐欺通販サイト、詐欺出品者、役員なりすまし詐欺 (CEO 詐欺) など、ホワイト カラー犯罪に分類される犯罪が新聞を賑やかしているのを見れば明らかだ。

かつては"クール (Cool)"とされていたホワイト カラー犯罪も、だんだんと"ホット (Hot)"になりつつあるのかもしれない。

(株式会社ディー・クエスト 公認不正検査士 山本 真智子)

参考文献

  1. LeClair, D. (2011). Week 2 study guide: Theories of White Collar Crime Causation Part 1
    Boston University
  2. Frank R. Scarpitti & Amie L. Nielsen. Crime and Criminals: Contemporary and Classic Readings in Criminology
    Oxford University Press; pp.432-434
  3. Schlegel, Kip & Weisburd, David (Eds.). (1992). White-Collar Crime Reconsidered
    Northeastern University Press
  4. Brody, Richard & Kiehl, Kent."From white-collar crime to red-collar crime"
    Journal of Financial Crime, 2010, Vol.17(3), Emerald Publishing; pp.351-364 (Peer Reviewed Journal)
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