#12 ホワイトカラー犯罪と不正における犯罪学の発展

今回は、FRAUD マガジンの「ガイス、サザランド、ホワイトカラー犯罪 (GEIS, SUTHERLAND AND WHITE-COLLAR CRIME)」より、犯罪学の発展について紹介する。

ホワイトカラー犯罪に目を向けた二人 - サザランドとガイス

ホワイトカラー犯罪を定義し、犯罪学の理論を打ち立てたのは、ご存知の通りエドウィン・ハーディン・サザランド (Edwin Hardin Sutherland, 1883-1950) である。ただ、サザランドがホワイトカラー犯罪の父と呼ばれる所以は、ホワイトカラー犯罪の研究よりも、分化的接触理論の提唱によるところが大きい。これについては第3回のコラム「サザランドとホワイトカラー犯罪」で取り上げているのでご覧いただきたい。

ホワイトカラー犯罪に強い関心を持ったのは、サザランドだけではなかった。1992~2002 年にわたり米国 ACFE 本部の President を務め、また、ウェブ ラーニングのコースのひとつ"Inside the Fraudsters Mind 不正実行者の内面"で犯罪学者として解説をしているギルバート・ガイス (Gilbert Geis) もその一人である。

エドウィン・ハーディン・サザランドの写真
エドウィン・ハーディン・サザランド[図1]
ギルバート・ガイスの写真
ギルバート・ガイス[図2]

不正、ホワイトカラー犯罪における犯罪学の発展と今後の展開

ホワイトカラー犯罪における「犯罪学」の視点は、なぜ犯罪に手を染めたかに着目するものであり、犯罪に至るまでの過程を分析して防止・抑止に活かす。そのためには、犯罪行動を解明し説明できるようにする必要がある。実際、サザランドもガイスも、犯罪者の生い立ちや周囲の状況から得られる経験に目を向けることが、犯罪の本質や犯罪者が犯罪を起こすに至った事情の理解に欠かせないと信じていた。

サザランドがホワイトカラー犯罪に着目した当時、ほとんどの犯罪理論は、非行行為や路上犯罪などの従来型の犯罪を主な対象としていた。当初、サザランドは、従来型の犯罪理論をベースとして、分化的接触理論をすべての犯罪に適用可能な一般理論化しようとした。つまり、ホワイトカラー犯罪という難しい分野に既存の理論を落とし込もうとしたのだ。

しかし、再犯・累犯の割合が高い従来型の犯罪と比較して、ホワイトカラー犯罪は、その実行者の多くが初犯であり、また、人生の後半、つまり物事の善し悪しや法律を理解できるようになってから行われるという特徴があり、旧来の理論での説明は難しかった。

そこでサザランドは、社会心理学的アプローチや構造的アプローチによる考察を行い、これらがホワイトカラー犯罪の説明に有用であることを証明する。この考え方は、犯罪学やホワイトカラー犯罪の研究において今なお、ひとつの流派として存在し、また、後述するように、ガイスによって理論が拡張される。

ガイスは、サザランドの考えを発展させ、犯罪者に焦点を当てて企業犯罪の研究を行った。ここで言う犯罪者とは、刑罪を定めた諸規定の犯罪構成に該当する、違法または有害な行為をする者を指す。ガイスもまた、ホワイトカラー犯罪者は明白な故意で現実の法律を犯していると指摘した。つまり彼らは、自分の行為が間違っていることを自覚しているものの、その刑罰を避けようとする。

驚いたことにガイスは「大学院にいたときは、犯罪なんて微塵も興味がなかった」と言っている。実際、博士課程の論文で取り上げた題材は、オスロの市営映画館の運営やノルウェー人のアメリカ映画に対する反応といった人種学的なものばかりで、犯罪学については講義を受けたことさえなかったそうだ。

しかしそんなガイスに転機が訪れる。大学院卒業後の最初の仕事が、オクラホマ大学での人種関係学と犯罪学の講義だったのだ。大学院を卒業してから犯罪学に触れるという点では、ガイスもサザランドと同じだった。

知識も題材もないガイスは、登場人物に犯罪学の教授が登場する、大学のキャンパスで起きたレイプ事件という三流小説ばりの実話を取り上げる。だが、このときの研究こそが、その後にカリフォルニアで犯罪学者として教授職に就くことになる自分にとっては最も有益だった、とガイスは回顧する。その研究ではサザランドの掲げたホワイトカラー犯罪に対する基本的な価値観とアプローチを利用しており、それらが後にホワイトカラー犯罪の理論を拡張する際の下地となったからである。

ガイスは、社会学の博士ではあったが、サザランドが提唱した価値観・アプローチを理解し、そこに人種学という新たな視点を導入するのは、苦悩の連続だっただろう。すでに確立されている分野に別の分野の新たな視点を取り入れるには、豊かな発想、様々な取り組み、そして、困難に立ち向かい続ける挑戦心が必要である。

複数の分野を統合して不正と闘い続ける CFE (公認不正検査士)

FBI 捜査官と公認会計士 (US-CPA) により設けられた CFE (Certified Fraud Examiner, 公認不正検査士) 資格は、犯罪学 (捜査視点を含む) とビジネス分野の融合である。必要となる知識や能力を様々な分野から取り入れながら、CFE は今後も不正と闘い続ける。

(株式会社ディー・クエスト 公認不正検査士 山本 真智子)


[図1] 参考文献 1. より引用, Indiana University Archives 提供
[図2] 参考文献 4. より引用

参考文献

  1. Brown, S.E., Esbensen, F. & Geis, G. (2010). Criminology: Explaining Crime and Its Context, Seventh Edition.
    New Providence, NJ: Matthew Bender & Company, Inc.; pp.274-275
  2. Robert F. Meier, Ph.D.「ガイス、サザランド、ホワイトカラー犯罪 (GEIS, SUTHERLAND AND WHITE-COLLAR CRIME) 前編」
    May/June 2013, FRAUD マガジン Vol.32, 日本公認不正検査士協会 ACFE JAPAN, pp.7-12
  3. Robert F. Meier, Ph.D.「ガイス、サザランド、ホワイトカラー犯罪 (GEIS, SUTHERLAND AND WHITE-COLLAR CRIME) 後編」
    July/August 2013, FRAUD マガジン Vol.33, 日本公認不正検査士協会 ACFE JAPAN, pp.22-29
  4. Dick Carozza. "He sought and brought out the best in everyone"
    March/April 2013, Fraud Magazine, ACFE

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