#07 被害者学とテレマーケティング詐欺の被害者 - 続き

映画"Boiler Room"の一場面

さて、今回は映画"Boiler Room"(邦題「マネー・ゲーム 株価大暴落」) の一場面を取り上げ、被害者学的視点から考察を行う。

「1日 400 コール」「ABC (Always Be Closing, いつも相手に親しげに)」「売るとは言わない (相手の購入意欲を掻き立てる)」を掲げ、製薬会社になじみのある人物へと繰り広げられるセールス トークを見て欲しい。(注:ここではわかりやすくするため大幅に意訳している。原文は、Fundoo Professor - The Boiler Room Lollapalooza を参照してほしい。)

映画の一場面「電話をかけるセス」
映画の一場面[図1]

セス (以下セ):もしもし、お忙しいところすみません。すこしお時間いただけますか?

ジェイコブ医師 (以下ジ):すみません、本当に忙しいのでまた今度にしてもらえますか。

:十分承知しています。お時間は取らせません。もし先生がご自分で事業を興す予定があるのでしたら残念ですが、そうでなければ友人の話を聞くようなお気持ちでお聞きください。

:一体何なのだね。

:先生は、投資で一千万ドル稼いでいますか?

:えっ? 何だって? (看護師からの質問が入り、電話の会話を聞き取れない。)

:先生は、MSC という会社の Fenamul という薬品はご存知ですか? お医者様ならご存知だとは思いますが・・・。

:いや、聞いたことはないね・・・。

:いま、この薬が FDA (米食品医薬品局, アメリカにおける医薬品などの最高承認機関) の最終承認を間近に控えている、ということをお伝えしたかったのです。ただ、先生はお忙しいようですから、詳細についてはまた来月、改めてお電話差し上げます。

:ちょっと待ってください。詳細はいいですから、その薬の名前をもう一度教えてもらえますか?

: この件について詳しい者にお取り次ぎしますので、少々お待ちいただけますか?

(クリスに取り次ぐ。)

クリス (以下ク):ジェイコブ先生、はじめまして。JT マーティン社のクリス・マーティンです。

:マーティンさんですか。

:そうです。JT マーティンは、私の父親の名前に由来します。ところで、MSC 社の株に興味があると聞きましたが。

:MSC という会社に興味があってね。

:興味がある? 興味程度では現在の価格で株は売れませんよ。

:それはわかるが、他の人の意見も聞いてみたいと思っていてね。

:結構なことです。この話をふいにして、臨床試験が成功した暁に別の誰かが裕福になっている様子を見て満足できるのなら、株なんて買わずに電話を切ってください。

:ちょっと待ってくれ。そうは言っていない。もう少しその薬について聞きたいだけだ。

:すみません。こちらも時間がないのです。たった今も株は飛ぶように売れているのです。ちょっと事務所の様子を聞いてもらえませんか?

(クリスが電話を掲げると、周りにいるブローカーが「買った!」「売った!」と大声で叫びだす。もちろんこれはただの芝居である。)

:聞こえますか、先生? 私たちは、すでにこの会社についてご存知のお医者様から、たくさんの電話をいただいているのです。申し訳ございませんが、先生ひとりにそんなにお時間を費やしている暇はないのです。

:わかった、わかった、株を買わせてもらうよ。

:初めて取引する方には、2000 株以上お分けできないんです。もっとお分けしたいのは山々なのですが・・・。

:2000 株だって? 思っていたより、ずっと多いな。参った・・・。ところで、どうしてこれだけしか売ってもらえないのかな?

:私達は、お客様と良い関係を築くために、小さな取引からはじめさせていただいて、だんだんと大きな取引へとつなげさせていただくようにしているのです。まず小さい取引からはじめて、将来のビジネスに繋げていきましょう。

:それはいいね。では、2000 株もらうことにするよ。

:かしこまりました。

:本当にこの株よりいいのは出ないと保証できるかね?

:申し訳ないのですが、それは分かりません。

:わかったよ。では、その条件で取引しよう。

:かしこまりました。次はもっと大きな取引ができるよう約束しましょう。ところで、注文請書を職場か自宅にお送りしましょうか?

:面白い冗談だね。

: ここからは秘書が担当いたします。しばらくお待ちいただけますか?

被害者学的視点からの考察

さて、皆さんはこのやり口についてお分かりいただけただろうか?

ジェイコブ医師が薬品名について聞き返したとき、すでに騙しはほぼ成功していたと言ってよいだろう。映画では、取り次ぎをする際のセスは、ニヤリと笑みをこぼしている。

ジェイコブ医師にとっては、自分の仕事となじみのある「薬品」という話題であること、あたかも皆は知っていて自分だけが知らないという状況である (かのように振る舞われている) こと、新薬の承認という製薬会社に莫大な利益をもたらす一大イベントが目前にあり、それに関連した投資であるように匂わされていることなどが積み重なり、取り次がれた相手に言いくるめられるようにして、この未公開株を購入してしまう。

話題に飛びついた被害者に上司が最後のとどめを刺す場面、電話の向こう側は、ただ机と電話が並べられただけの、典型的な詐欺会社の佇まいだった。

映画の一場面「JT マーティン社内の様子」
映画の一場面[図2]

決して自分から売りつけようとはせず、相手の興味を惹くようにするやり方で、相手の懐疑心を消し去ることに成功している。もしあなたがジェイコブ医師の立場だったとしたら、騙されずに済んだだろうか?

 

次回は、被害者学の延長として、職業犯罪 (Occupational Crime) について取り上げ、CFE が不正を暴き出した事例として、バーナード・マドフ (Bernard Madoff) により行われた史上最大級の巨額詐欺事件 (Madoff Affairs) についてお話する所存です。

(株式会社ディー・クエスト 公認不正検査士 山本 真智子)


[図1][図2] 参考文献 4 より引用

参考文献

  1. Karmen, Andrew (2010) Crime Victims: An Introduction to Victimology. 7th ed. Wadsworth, Belmont
  2. Schlegel, Kip & Weisburd, David (Eds.)(1992) White Collar Crime Reconsidered Northeastern University Press.
  3. David O. Friedrichs (2010) Trusted Criminals: White Collar Crime In Contemporary Society, 4th Edition. Wadworth Cengage Learning, Belmont, CA; Box 2.7 pp.56.
  4. Fundoo Professor - The Boiler Room Lollapalooza
  5. Want to be successful? Learn how to sell! (by NEIL PATEL)
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