本記事は、不正対策に役立つ情報を会報誌「FRAUD マガジン」などから抜粋してご紹介するものです。

#002 従業員という泥棒:最も多くの不正を犯すのは誰か?

犯罪学者たちは人口統計を見つめて、誰がより多くの不正を犯すのか、そしてその理由を見極めようとする。若手従業員か年輩の従業員か? 管理職か経営幹部か? 従業員の年齢やその他の特徴によって不正や損失がどのように異なり、企業が従業員による窃盗の被害に遭わないようにするために何ができるのかを学ぶ。
 
友達と一緒にパーティに出席したサムは、彼が大学時代に女性向け宝石店でアルバイトをしていた時の話をした。店長は疑い深いけちな人物で、サムや他の店員が商品を盗んでおり、まじめに働いていないのではと絶えず疑っていた。サムは模範的な販売員でよく残業もしていたが、それでも店長は疑り深かった。
 
ある日、店長はサムがカウンターで接客をせずに休憩室で座っているのを目撃した。その日サムは足に痛みがあり、他の従業員が店に出ているので5分だけ休憩を取ろうと考えたのだ。店長はサムを怒鳴りつけ、彼が(全日制の大学に通いながら)その週すでに45時間勤務していたにもかかわらず、仕事を怠けていると非難した。サムは足が痛いことを説明しようとしたが、その前に店長は全従業員を休憩室に集めて、長い休憩を取らないようにと説教した。店長との釈然としないこのいざこざで恥をかかされたサムは憤りを覚え、もはや模範的な販売員であり続けようとは考えなかった。〔注1〕
 
上司に叱責された若手従業員が、企業から資産を盗むことで「上司への仕返し」に着手する可能性がある。ACFE会長のジョセフ・T・ウェルズ(Joseph T. Wells, CFE, CPA)は、協会の出版物である「The Corporate Fraud Handbook: Prevention and Detection (企業不正対策入門:防止と発見)」において、若者は自分の行動が刑務所に入るような事態を引き起こすという認識ができず、大胆にも罪を犯すということを犯罪学者が発見したと指摘した。この記事では、若手従業員と年輩の従業員が金銭犯罪(financial crime)を犯す他の(仕返し以外の)理由、そして雇用主が従業員窃盗による被害から身を守るために何をすべきかについて検討する。
 
 
 
汚れたホワイトカラー (Stained white collars)
 
 
ACFEは、ホワイトカラー犯罪は、アメリカ国内で年間6600億ドル以上の損失を出していると推計している。エドウィン・サザーランド(Edwin Sutherland)は、1939年にアメリカ社会学会(the American Sociological Society)でスピーチを行った際に、「ホワイトカラー犯罪」という新しい言葉を生み出した。彼はそれを、「尊敬され、社会的に高い地位にある人物が自らの職務遂行の過程で犯す罪」と定義した。ホワイトカラー犯罪の構成要素関しては長年議論が重ねられてきたが、今日、その言葉は一般的に、不正実行者の金銭的充足のために、職場などの業務の場(commercial situation)において実行される様々な種類の知能犯罪を含む概念である。加害者が複雑な処理を重ねることで巧みに犯行を隠ぺいするために、ホワイトカラー犯罪の訴追はますます困難になってきている。
 
 
 
彼らの心の中 (Inside their minds)
 
 
第16回ACFE年次総会で、ACFEの教育部長であるナンシー・パスターナック(Nancy Pasternack, CFE, CPA)は、「Inside the Minds of White-Collar Criminals(ホワイトカラー犯罪者の心の中)」というセッションを開いた。彼女は、若手従業員は「規則に従う姿勢」が欠けているため、不正流用を実行する傾向にあると語った。若手従業員は確立された社会規範やシステムに従うことへの真剣さに欠ける傾向にあるため、不正行為をはたらく可能性が高いと彼女は言う。
 
ウェルズと同じくパスターナックは、会社や雇用主から冷遇されたことが原因で犯罪を起こす可能性は、若手従業員のほうが高いと語った。企業が新入社員や若手従業員を消耗品のように扱うことがもたらす結果を十分認識していないために、企業は、もともと犯罪を起こしやすい集団(=若年層)に自分たちが利用されても仕方がない状況を作り出してしまう。それゆえ、雇用主が若手従業員に対して、年輩の従業員が年功に伴い得る権利と同等の権利、福利厚生、特典を与えれば、若手従業員は自分が評価されていると感じて、彼らが企業に損害を与える可能性は低下するであろう。
 
 
 
不正トライアングル―従業員による窃盗の動機
(Fraud Triangle - motivations for employee theft)
 
 
1940年代、インディアナ大学で教鞭をとっていたサザーランドが教えた中で最も優秀な生徒はデイビッド・クレッシー(David Cressy)であった。クレッシーは横領者(彼は「背信者(trust violator)」と呼んだ)の研究に専念し、有名な不正のトライアングルを考案した。それは認識された機会、プレッシャー、正当化の3つの要素で成り立つ。従業員の年齢層、企業内の地位によって、金銭犯罪を実行する機会、プレッシャー、自分の行為を正当化する理由付けが異なるだろう。ナンシー・パスターナックは、「若手従業員が実行した不正スキームの種類は、年輩の従業員が実行したものとは異なることが多いのです。」と話す。
 
パスターナックによると、年輩の従業員と比較すると若手従業員は、在庫や消耗品(supply)の窃盗、病欠の乱用、その他の低レベルの不正を犯す割合が高い傾向にある。25歳以上から定年までの年齢層においては、これらの基本的レベルの不正よりも、高レベルで高額な犯罪を実行する可能性が高い。なぜなら、年輩の従業員の方が、不正を実行する機会に恵まれやすく、またプレッシャーを感じる度合いも高いからだと彼女は語る。また、若手従業員の方が窃盗の発生率は高いが、損失額は年輩の従業員による窃盗のほうが高額であるとも指摘する。
 
 
 
年齢別金銭犯罪の相違点 (Differences in financial crimes by age group)
 
 
パーデュ大学(Purdue University)のリチャード・C・ホリンガー(Richard C. Hollinger)とミネソタ大学(the University of Minnesota)のジョン・P・クラーク(John P. Clark )によって1983年に発表された画期的な研究「従業員による窃盗(Theft By Employees)」は、様々な業種で働く従業員1万人の回答を分析したものである。ウェルズは「すでに20年の月日が経過していますが、二人の研究は、この分野における最大で最も包括的な研究プロジェクトです。彼らによるその他多くの観察結果と共通して、若手従業員はいくつかの理由が原因で窃盗を実行する傾向があったことを彼らは究明しました。まず、若手従業員は規則に従う姿勢というものが発達していません。すなわち、彼らは仕事に対する投資をほとんどしてないということです。2番目に、ほとんどの場合において、彼らは高い給料を得てはいません。3番目に彼らは窃盗は重大な犯罪であるということを理解するに足る十分な労働文化(culture of the workforce)を身に付けていません。」
 
ホリンガーとクラークの研究は、若者(特に男性)の方が年輩者よりも窃盗に関与する割合が高いと示しているが、「我々が独自に調査した“職業上の不正と乱用に関する国民への報告書(Report to the Nation on Occupational Fraud and Abuse)”において、年齢と平均損失額には逆の割合が存在することが分かっています。なぜなら、年輩の従業員は、若手従業員よりも高い割合で企業資産を管理する高い地位にあるからです。」とウェルズは語る。
 
「国民への報告書」2004年版で、年齢は平均損失額の大きさに直接的な相関関係があることが証明された。60歳以上の人間が実行した不正は9件しかなかったが、それら事件の平均損失額は52万7千ドルで、最年少の加害者がもたらした損失の29倍であった。
 
研究調査対象となった加害者のおよそ約半数(49%)は40歳以上であったが、一方で30歳以下はわずか1/6(17%)であった。(このデータは、若手従業員が不正行為を実行する可能性が高いことを示す他の研究調査と矛盾している。〔注2〕)(図1参照)
 
 
 
図1)このグラフは、ACFEの職業上の不正と乱用に関する国民への報告書2004年版を参照した。この研究に使われた方法論の影響があるため、若手従業員の方が金融不正を犯す傾向があることを必ず立証するものではない。(〔注2〕参照) 
 
 
 
地位の重要性 (Importance of position)
 
 
不正スキームの損失規模に最も重大な影響を及ぼす要因として、従業員の企業内における地位の次に、考慮すべきものは、年齢である。従業員の地位は、加害者の持つ権限が大きくなるにつれて、不正損失もまた増加すると「国民への報告書」に記されている。(図2参照)(報告書の全文を読みたい場合はhttp://acfe.com/fraud/report.aspを参照)
 
 
 
図2)不正実行者の企業内での地位は、不正損失の規模に最も重大な影響を与える。ACFEの「職業上の不正と乱用に関する国民への報告書」から参照したこのグラフから、経営者/役員の地位にある人々の平均不正損失額が社員や管理職の人々がもたらしたそれの約9倍の数値を示していることがわかる。 
 
 
 
ホワイトカラー犯罪と路上犯罪に対する一般認識
(Public perception of white-collar crime vs. street crime)
 
 
全米ホワイトカラー犯罪センター(the National White Collar Crime Center :略NW3C)が2000年に実施した、「ホワイトカラー犯罪に関する全国世論調査」において、回答者に「路上窃盗犯」(路上で誰かから100ドルが入っているハンドバッグを盗む)と不正実行者(請負業者が100ドルを誰かから騙し取ること)を比較して、どちらの方が罪が重いと感じるかを選ぶように依頼した。路上窃盗犯の罪が重い(38%)と感じる回答者よりも不正実行者の罪が重いと感じる回答者(44%)の方が多かった。残りの回答者(18%)は罪の重さは同レベルであるという見方をした。(図3参照)
 
 
  
 100ドル盗んだ路上窃盗犯と100ドル盗んだ不正実行者では、どちらの方が罪が重いですか?
 
 
 青=窃盗犯の方が罪が重い
 
 オレンジ=契約不正実行者の方が罪が重い
 
黄=同等 
図3) 使用許可済 c2000 The National White Collar Crime Center. All rights reserved. 
 
 
 
不正損失は路上犯罪の損失を卑小に見せる (Fraud costs dwarf cost of street crime)
 
 
一般的に犯罪学者は、ホワイトカラー犯罪による損失額の正確な測定が難しいとしても、その損害額は路上犯罪の損害額よりもはるかに大きいという意見に同意する。FBI発行の統一犯罪白書(Uniform Crime Reports :略UCR)の1990年から1998年の全米逮捕統計で、暴力犯罪(殺人、強姦)と窃盗犯罪(強盗、窃盗、車両窃盗)の逮捕件数は減少を見せたが、不正や横領に関する逮捕件数は大幅に上昇した。1990年、不正行為が絡む事件の逮捕件数は182,752件であったが、1998年には220,262人(18歳以上及び以下の男性・女性で、改ざん・偽造に関与した70,678人と横領に関与した10,585人を含む)であった。 逮捕率は上昇しているが、従業員窃盗の多くが摘発されていない。全米ホワイトカラー犯罪センターの調査において、泥棒と不正実行者のどちらが逮捕されやすいと感じるかを回答者に質問した。多くの人々(74%)が、泥棒の方が不正実行者よりも逮捕されやすいと感じると答えた。(図4参照)
 
 
  
 泥棒と不正実行者のどちらが逮捕されやすいと感じますか? 
図4) 使用許可済 c2000 The National White Collar Crime Center. All rights reserved. 
 
 
 
雇用主の予防 (Employers' preventions)
 
 
それでは、雇用主は従業員が経済的不正(economic frauds)を犯さないようにするために何ができるだろうか? ナンシー・パスターナックは、「雇用主は、優れた内部統制ステムを現場に確立すべきです。これにより、誠実な人々が誠実であり続けることができるのです。」と提案する。組織は前向き活力、忠誠、家族の文化(a culture of positive energy, loyalty, and family)を作り出す取り組みをすることで、内部統制を無効化しようとする従業員を抑止することができるだろうと彼女は言う。
 
従業員の不正行為への関与を抑止するために、雇用主は従業員に対して、以下の対応をすることを明確に知らせるべきである。
 
  • 抜き打ちでの現金残高精査の実施
  • 無作為な在庫点検の実施
  • 内部通報者のためのホットラインの設置
  • 監視カメラの設置
  • 社内コンピューターにあるコンピュータファイル及びEメールのバックアップと保存 
  • インターネット使用の監視
 
これらの対策の導入により、不正を抑止効果が高まるであろう。なぜなら、これによって不正行為を正当化することが難しくなり、彼らは「忠誠心あふれる」従業員に見つかることを恐れるようになるだろうと彼女は話す。しかも、従業員が会社全体はチームまたは「家族」であり、自分がその一員であると感じる会社において不適切な行動の発生を疑った場合、その人物はそれを自分自身の問題として捉えるため、通報する可能性が高い。忠誠心ある従業員は、会社に対する不正行為は自分が個人的に信頼するリーダーまたは自分自身に対する不正行為であると考える傾向がある。「簡単に言えば、組織の従業員は、不正行為を引き起こすだけでなく、不正防止に向けての最良の資源としても活用できるということに気づくべきです。」と彼女は言う。
 
ホリンガーとクラークの研究において、研究者は職場における従業員の統制の認識が、逸脱行動にどのような影響を与えるのかを調査した。もし従業員が発見されるかもしれないという強い認識を持っている場合、不正行為に関与する可能性が低い。それゆえに、発見されるのではという認識を高めることが、組織構成員による不正を抑止するために雇用主が取りうる最良策のひとつである。
 
 
 
 
〔注1〕 これは架空の話である。 
〔注2〕 ジョン・ウォーレン(法務博士、公認不正検査士、ACFE法務顧問〔John Warren 、J.D., CFE, the ACFE's general counsel〕)が「国民への報告書2004年版」の調査を実施した。彼は、「ACFEは企業に、一定期間に各企業が経験した全不正事件を報告するようにとは依頼しませんでした。」と話した。「なぜなら、我々はCFEの報告に特定の事件を選択させたので、全体の取扱件数からより代表的な事件を選ぶというよりは、彼らが調査を実施した中で最大の事件または最も興味深かった事件を報告する傾向にあったのではないかと考えます。一般的に高額不正事件は、年功序列で上位に属する年輩の従業員が関与しています。なぜなら、若手従業員よりも彼らの方が会社の現金や資産へのアクセス権限をもつ可能性が高いからです。そのため、我々のデータは、特定の組織または業種における不正実行者全体に対してより包括的に注目する他の研究と対照的に、年齢層の高い不正実行者寄りの情報に偏りがあるものと考えます。これは我々の調査方法から生じる必然的な結果です。」と説明した。 
 
 
 
 
スザンヌ・マハデオ
ACFEのビジネス作家であり、Fraud Magazineの編集補佐で、テキサス州オースティンのセント・エドワーズ大学(St. Edward's University)の大学院生である。 
 
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