本記事は、不正対策に役立つ情報を会報誌「FRAUD マガジン」などから抜粋してご紹介するものです。

#004 デジタル分析入門

多くの新人不正検査士は、事件の調査にデジタル分析が必要なことを認識しているが、その迷路から抜け出すために、何らかの指針が必要なことも分かっている。以下では、経験を積んだ仲間たちが提供してくれた実践的アドバイスを紹介する。
 
ユニーク・ファッション社 は、全国に女性用服飾品の小売店を展開していた。同社は小売店舗の全てを自社で建設し管理していた。各店舗の店長は、四半期毎に店舗管理費用として上限5千米ドルまで使う権限が与えられている。 これらの費用には、店舗の破損した窓の修理、冷暖房の故障、屋根、配管の不具合の修理等が含まれる。管理費は店舗ごとに記録された。(注1)
 
2年前、基本データを得るために、ユニーク・ファッション社の内部監査人はデジタル分析を用いて管理費を分析することにした。その分析において、彼らは四半期毎の店舗あたりの典型的な管理費分布パターンを見極めた。それは、1~1,250米ドルの範囲の経費分布に相当する店舗が全体の30%、1,251~2,500米ドルの範囲が50%、2,501~3,750米ドルの範囲が15%、3,751~5,000米ドルの範囲が5%という分布であった。この年の管理費分析で、No.156の店舗において、管理費項目の47%が1~1,250ドルの範囲内にあることが明らかになった。彼らは内部監査のためにこの店舗を訪問するスケジュールを組んだ。
 
不正の疑いがあったため、内部監査人たちはその監査チームに公認不正検査士(CFE)を配置した。その調査により、その店舗の店長であるジョーンズ女史が、冷暖房設備会社を経営する義理の弟と共謀し、キックバックが絡む不正に関与していたことが判明した。管理費勘定のデジタル分析が実施されなければ、恐らくこの不正事件は表面化しなかったであろう。
 
 
 
専門家へのインタビュー (Interviewing the experts)
 
 
我々の多くが知っているように、ACFEが発表した「職業上の不正と乱用に関する国民への報告書」(Report to the Nation on Occupational Fraud and Abuse)は、アメリカ企業だけの不正事件で、年間6,600億米ドルの損失を出していると推計している。これは深刻な数字である。公認不正検査士、法廷会計士、内部監査人、損失防止専門家は、不正との闘いに、どのように貢献できるであろうか。その手段の一つにデジタル分析の活用がある。デジタル分析は不正行為を発見・抑止する可能性を秘めている。また、それは内部統制の効果を試すためにも使用され、業務の効率性と非効率性の特定に役立ち、選択したデータの継続的な監視に役立つツールを提供する。
 
デジタル分析がどのように不正の発見・抑止に役立つのかを学ぶため、我々は経験豊かなデジタル分析の実践者たちにインタビューを実施した。そのメンバーは、イリノイ州ブルーミントンにあるステイト・ファーム保険会社(State Farm Insurance Companies)の保険金申請監査スタッフ(staff claim auditor)のマーク・バー(Mark Burr)、シカゴにあるヒューロン・コンサルティング・グループ(Huron Consulting Group)のフォレンジック技術・ディスカバリーサービスのマネジャーでCFEのスコット・カーティス(Scott Curtis)、オーク・ブルックにあるマクドナルド・コーポレーション(McDonald's Corporation)の内部監査部長のマイケル・エラシ(Michael Eraci)、オハイオ州クリーブランドにあるアーンスト&ヤング社(Ernst & Young)のビジネスリスクサービス部シニアマネジャーのジョン・クルーガー(John Krueger)、ニューヨークにあるアーンスト&ヤング社のビジネスリスクサービス部シニアマネジャーでCFEのジョン・ランジオーネ(John Langione)である。(ここに記された意見はインタビューを受けた人物個人の見解であり、必ずしも雇用者の意見を反映したものではない。)これらの実践者たちが、デジタル分析を定義し、その長所と短所について論じ、デジタル分析の始め方について助言をしてくれた。
 
 
 
デジタル分析とは何か (What is digital analysis?)
 
 
「デジタル分析は、数値の偏差の原因を見つけ出すために、データ内部の不整合なパターンと偏差を特定する目的でデータセットを分析するプロセスを言います。」とカーティスは話した。ランジオーネによると、「通常、業務効率の悪さ、内部統制の不遵守、不正行為などを仮定したデジタル分析は、データ内部の異常なパターンとして現れます。」ということである。バーは、「不正を実行する人間は、一定のパターンを示す傾向があります。デジタル分析はそれらパターンを発見する方法を提供します。」と語った。それゆえ、デジタル分析はCFE、法廷会計士、内部監査人、損失防止専門家にとって多くの潜在的活用法を持つ。このテーマの理解を深めるため、デジタル分析技法に関するいくつかの事例を見てみよう。
 
 
 
ベンフォードの法則 (Benford's Law)
 
 
広く知られる最も有名なデジタル分析テクニックのひとつであるベンフォードの法則は、1920年代に、ゼネラル・エレクトリック社(General Electric)の物理学者フランク・ベンフォード(Frank Benford)によって開発された。彼は対数表に関する本を使用する際、最後の方のページよりも始めの方のページの使用頻度が高いことに気付いた。そのことから、ベンフォードは、大量のデータセットにおいては、最初の桁が大きい数字で始まるものよりも、最初の桁が小さい数字で始まるものの方が多いであろうと仮定した。「最初の桁(first digit)」とは、数の一番左の桁を意味する。例えば、476という数字においては、4が最初の桁であり、7は2番目の桁、6は3番目の桁である。
 
ベンフォードは実験的に、大量のデータセットにおいて各1~9の数字が最初の桁として使用される頻度の分布を検証した。結果は以下の表のとおりである。
 
 
最初の桁  頻度 

.30103

 .17609

 .12494

 .09691

 .07918

 .06695

 .05799 

 .05115 

 .04576 
 
 
この表において1は、約30%の割合で最初の桁として現れるが、一方で9は最初の桁として4.6%の割合でしか現れない。また、ベンフォードは2番目、3番目、4番目の桁における頻度の分布も展開した。桁の使用頻度の分布表は、次のとおりである。
 
 
ベンフォードの法則: 予想数字使用頻度
Benford’s Law: Expected Digital Frequencies
数字中の位置
 
 
数字 最初の桁 2番目の桁 3番目の桁 4番目の桁
   .11968  .10178  .10018
 .30103  .11389  .10138  .10014
 .17609  .10882  .10097  .10010
 .12494  .10433  .10057  .10006
 .09691  .10031  .10018  .10002
 .07918  .09668  .09979  .09998 
 .06695  .09337  .09940   .09994
 .05799  .09035  .09902   .09990
 .05115  .08757  .09864   .09986 
 .04576  .08500  .09827   .09982 
 
 
 
 
表の出典: 「ベンフォードの法則を使用したデジタル分析(Digital Analysis Using Benford's Law)」、マーク・J・ニグリーニ著(Mark J. Nigrini)、グローバル・オーディット・パブリケーションズ社(Global Audit Publications)2000年出版、内部監査人協会(the Institute of Internal Auditor)のウェブサイトwww.theiia.orgにて入手可能。 
 
全てのデータセットがベンフォードの法則に一致するというわけではない。ベンフォードの法則が適用されるためには、データセットは大量なもので、ランダムな数で構成されていなければならない。一方で、ベンフォードの法則は次の状況では適用できない。
 
 
  • 割り当てられた数である場合(例えば、電話番号や社会保障番号など) 
  • データに上限または下限が設定されている場合(例えば、購入担当者による専決限度額が5千米ドルである場合の購入注文金額のデータセット) 
 
ベンフォードの法則に一致しないデータセットの詳細については、2000年にグローバル・オーディット・パブリケーションズ社より出版されたマーク・J・ニグリーニが著した「ベンフォードの法則を使用したデジタル分析」を参照して欲しい。内部監査人協会(the Institute of Internal Auditor)のウェブサイトwww.theiia.orgにて入手可能である。その他の資料には、CD-ROM付属のワークブックである「不正発見におけるベンフォードの法則の使用(Using Benford's Law to Detect Fraud)」があり、www.ACFE.comのACFEブックストアで購入できる。
 
ベンフォードの法則には多くの実践的応用方法がある。例えば、あなたが現金支出のデータを分析しているとしよう。ベンフォードの法則をそのデータセットに適用するのであれば、前に示した最初の桁に関する数字の使用頻度の表が適用される。現金支払というデータセットに対しベンフォードの法則による分析を行った後、もし6という数字が最初の桁として10%の割合で現れた場合、その結果は警戒信号を意味することになる。なぜなら、ベンフォードの法則では、6はわずか6.7%の割合でしか現れないからである。調査を進めた場合、不正実行者が6で始まる数字を使って、未承認小切手を作成していたことを発見するかもしれない。不正実行者は、6千米ドルという数字は取るに足りない金額なため、6千米ドル台で切られた小切手を調べる人間はいないであろうと考えているかもしれない。あるいは、6という数字が最初の桁で発生する頻度が高い正当な理由を見つけることになるかもしれない。例えば、その会社が数多くのレンタル資産を保有しており、その賃料がいつも6千米ドル台であるという可能性がある。
 
 
 
相対サイズ係数 (Relative size factors)
 
 
相対サイズ係数テストにおいては、比率を計算する。データセット中の最大数値を2番目に大きい数値で割るのである。このテストは支払勘定においてよく使用される。11月に業者RRT社に支払われた買掛勘定の最高額が1,200米ドルであったと仮定しよう。この月に当該業者に対して支払われた2番目に高額な支払額は1,000米ドルである。その結果、業者RRT社に関する11月の数値は、1.2の相対サイズ因数比率(relative-size-factor ratio)となる。しかし、12月にこれと同様の相対サイズ因数テストを実施した際に12という比率がはじき出されたとする(その月の最高額12,000米ドルの支払額を2番目に高額な支払額1,000米ドルで割ったもの)。明らかに、この比率の大きな変化は調査する必要がある。その結果、12,000米ドルの支払いは、不注意による入力ミスであり、正しくは1,200米ドルであったことがわかるかもしれない。この種の分析は月ベースで、業者ごとに実施されることになる。
 
 
 
その他のテスト (Other tests)
 
 
最後の2桁を分析するテストは、デジタル分析がどのように使用されるのかを示すもう一つの事例である。ベンフォードの法則によると、ある人物が数字の右側に位置する桁(すなわち3桁目と4桁目)を調べる際、右側に位置する各数字の桁はおおよそ均等な割合で発生する可能性がある(再度、前に挙げた表を参照して欲しい)。例えば、00、01、02から99までの最後の2桁の組み合わせは、およそ1%の発生確率がある。もしも、調査したデータの最後の2桁が、データセットで予想される1%のパターンと異なる分布を示した場合、さらなる分析が必要になるであろう。例えば、データセットの中で最後の2桁が00であり、それが4%の割合で発生していたと仮定しよう。これは数字の切り上げや切捨てが過度に発生していることを示している。例えば、在庫をカウントする従業員が正確なカウントを実施せず、代わりに概数で見積もっている可能性がある。もし、あるデータセット中の最後の2桁に99が予想以上に現れた場合、定められた金額制限を越えないように従業員が数字を操作している可能性がある。もしも、10,000米ドル以上の購入契約には別のレベルの許可が必要な場合、購入担当者は経営管理側の精査を避けるために9,999米ドルと書いている可能性がある。最後の2桁に関するその他の任意の組み合わせについても、それが予想以上の頻度で現れる場合には、不正な数字を示している可能性があり、恐らくは、それがきっかけで調査を始めることになるであろう。
 
 
 
デジタル分析の限界 (Limitations of digital analysis)
データへのアクセス (Accessing the data)
 
 
デジタル分析を効果的に活用するためには、その限界を知らなければならない。「デジタル分析を行うためにデータをフォーマットに落とし込むには、かなりの時間と労力を要します。」とエラシは話した。このため、初めてデータにアクセスする場合は、それが非常に骨の折れる長期的なプロセスになる可能性があることを意識しておく必要がある。
 
 
 
偽陽性 (False positives)
 
 
インタビューに応じてくれた全員が、デジタル分析における最大の難点は、偽陽性の結果を出る可能性あると強調した。偽陽性を例証する為に、ベンフォードの法則を使ってデータセットを分析した結果が、法則にもとづく分布と一致しないと仮定しよう。そのため、データ内の偏差の調査をしたところ、データ内の異常値(the spike in the data)には、正当な理由があることがわかった。例えば、最初の桁「2」は、ベンフォードの法則では17.6%の割合で現れるはず(前述の表参照)であるが、データセット中では26%の割合で出現していた。調査によると、毎月2,500米ドルの経費を定期的に支払っていることが明らかになった。この2,500米ドルの支出が、データ内の偏差であることが説明される。これが偽陽性の例である。
 
公認不正検査士、不正検査士、内部監査人、損失防止専門家のすべてに、不正との闘いの中で果たすべき重要な役割がある。しかし、インタビューに応じてくれた全員が、内部監査人こそが、数多く発生する偽陽性の問題を回避できる最良の立場にあるという意見であった。内部監査人は企業を理解しており、企業リスク、統制リスク、企業内のデータセットについての知識を持っているというのが、その理由である。
 
「内部監査人は、企業の情報システムの中で、どのようにしてデータが集積されるのかを知っています。常勤の内部監査人は、不正リスクの高い取引を特定するために、組織に関する詳細な業務知識を利用することができます。」とランジオーネは語った。カーティスによると、「法廷会計士にとっては、データはデータに過ぎません。しかし、知識が豊富な内部監査人は、それらのデータに企業運営がどのように反映されているのかを法廷会計士に理解させてくれるでしょう。30分程度のわずかな時間を内部監査人と過ごすだけでも、非常に価値があることなのです。」ということである。
 
デジタル分析を実施する前に、データセットの範囲を狭める必要がある。「データ全体を取り出して、デジタル分析にかけたいという衝動に駆られるかもしれません。」とランジオーネは話す。しかし、データ全体をデジタル分析にかけると、通常多くの偽陽性を生み出してしまうことになる。分析するデータを選ぶ前に、内部監査人の意見を仰ぐ必要があるかも知れない。その理由は、内部監査人は企業に関する知識を有しており、全体のデータの中から分析に用いるべきサブセットを抜き出す能力があるからである。一般的には、適切なサブセットを分析することで、偽陽性の数を大幅に減少させることができる。例えば、家主傷害保険金請求データ(homeowner casualty insurance data)を分析する際には、アメリカ中西部にある同等規模の都市に関するデータに限定して調べるのが得策かもしれない。これは、中西部の農村地帯の保険金請求データは、東海岸や西海岸地域とは異なる特性を示す可能性があるからである。
 
 
 
事後確認の時間 (Follow-up time)
 
 
デジタル分析における2番目の限界は、データセット内の偏差の事後調査に膨大な時間を要するという点である。カーティスは、「デジタル分析を使えば、瞬時に何百万というデータポイントを分析することができます。しかし、残念ながら多くの偽陽性が現れる可能性があり、それら全てのデータ偏差を調査するためには気が遠くなるほどの時間が必要になるでしょう。」と語った。クルーガーは、外部監査の観点から、デジタル分析がもたらす厄介な事後確認の例を提供してくれた。「外部監査人は、財務諸表監査にデジタル分析を使用しないかもしれません。なぜなら、それによってあまりに多くのデータの偏差が生じるからです。」彼はさらに「外部監査人に必要なのは財務諸表に重大な虚偽表示が存在しないことを確認することであり、そうすれば安心して先に進むことができます。このため、デジタル分析は、データ偏差を掘り下げて調査する時間的余裕のある内部監査部においてより効果的に使用することができます。」
 
デジタル分析の限界をまとめると、(インタビューに応じてくれた)実務家全員が2つの点を強調した。1点目は、ベンフォードの法則による分析を行う前にデータセットを絞り込んで、結果として生じるデータ偏差の頻度を下げる必要があるということである。2点目は、データ偏差の原因追求には多大な時間を要することである。しかし、カーティスによれば「事後の確認作業においてこそ、真に価値ある結果を見出すことができる。」
 
 
 
デジタル分析の利点 (Advantages of Digital Analysis)
全データの分析を容易にする (All data analyzed )
 
 
100%のデータ母集団を分析することは、多数の偽陽性を生む可能性を高めるが、そのような分析が必要な場合もあるであろう。そのため、デジタル分析の重要な利点はデータを100%隈なく調べられるところにある。適切なソフトウェアを使えば、数百万というデータポイントを短時間で分析することができる。「デジタル分析は、ひとつのサンプルではなく母集団全体を調べます。したがって、データ母集団を100%調査したうえであれば、経営陣に対して検出結果を正当化し、勧告することが容易になるのです。」とエラシは説明した。
 
 
 
データに対する先入観、偏見を排除する (Unbiased look at data)
 
 
「デジタル分析は、データを公平に見る目を与えます。」とバーは語った。これは、あなたが積極的に組織内の不正を探している場合には非常に重要なことである。あなたは組織内でどの種類の不正が発生しており、デジタル分析が何を明らかにするかに関して先入観を持っているかもしれない。しかし、デジタル分析ソフトウェアには偏見の目は内蔵されていないので、データに対して完全に公平な目で分析を行う。まったく予期しないデータ・パターンを明らかにする可能性もある。その結果、新手で特異な不正の存在を発見できるかもしれない。
 
 
 
内部監査の対象範囲策定に役立つ (Helps plan internal audit scope)
 
 
「デジタル分析の上手な利用法は、監査の対象範囲決定に先立って実施することでしょう。」とバーは語った。デジタル分析は問題が存在する可能性のある分野を特定することができる。監査を計画する際に、内部監査人はデジタル分析が特定した分野に焦点を当てることができる。「適切に実施されれば、デジタル分析は監査の効率的な実施を可能にする、非常に有効な手段となるでしょう。」とエラシは話した。不正検査士は、同様の方法で調査の焦点を絞る目的でデジタル分析を利用することができる。
 
 
 
継続的なモニタリングを可能にする (Continuous monitoring)
 
 
デジタル分析は、組織が継続的なモニタリングのための優れたツールを提供する。あなたがデータのサブセットを特定し、それをデジタル分析にかけ、必要な時間を掛けて全てのデータ偏差の事後確認を行ったと仮定しよう。この時点で、抽出されたデータのサブセットが以後の継続的モニタリングの基準として役立つであろう。基準を確立するもう一つの方法は、特定のデータセットを定期的に分析することである。例えば、最近6ヶ月間のデータをそれ以前の6ヶ月間のデータと比較するということが可能である。以前の6ヶ月間のデータは、今後のデータの測定基準となる予想分布を構成しうる。このアプローチは、データセットがベンフォードの法則に適合しない場合に特に役立つ。このように、企業が持つ独自のデータ分布が基準となる。このアプローチを使用すれば、ある期間から次の期間までのデータ内の異常値を簡単に特定することができる。もし、データの異常値が取引状況の変化で説明できないのであれば、そのデータ偏差は、恐らく不正の兆候を示すものである。このことは、一定のデジタル分析を定期的に繰り返し、新しい結果を基準となる結果と比較できるということを意味する。
 
新たなデータ偏差が存在しなければ、通常は確認調査の必要はないであろう。このような継続的モニタリングの概念は、数多くの子会社を持ち、グローバルな営業活動を行う組織において非常に有益である。もし、自宅の書斎からデータ分析ができるコンピュータシステムを組織が有しているならば、デジタル分析は非常に有効なモニタリング・ツールになるであろう。一方、コンピュータシステムがこの種の一元的な分析(centralized analysis)をサポートしていない場合、各事業部門においてデジタル分析が実施できるように、教育することができる。内部統制強化は経営陣の責任であるため、このような形での継続的モニタリングの実践を通じて、経営陣は内部統制プロセスのオーナーシップを維持することができる。
 
 
 
抑止する価値 (抑止する価値)
 
 
通常、デジタル分析の費用対効果はプラスである。デジタル分析は顕著な不正抑止効果をもたらしうる。なぜなら、「たとえデジタル分析により不正が発見できないとしても、従業員は会社が不正の摘発に積極的に取り組んでいることを理解するからです。」とバーは語った。
 
 
 
どのようにして始めればいいのか (How do I get started?)
 
 
デジタル分析を始めるのは難しいのであろうか。インタビューに応じてくれた人々は皆口をそろえて「難しくはない」と答えた。事実、彼らのうち4人は分析テクニックを独学で学んだ。マーク・ニグリーニ(Mark Nigrini)の著書、「ベンフォードの法則を使用したデジタル分析(Digital Analysis Using Benford’s Law)」は、デジタル分析に関する優れた全体像を提供する。ACFEの資料には「ベンフォードの法則を使用したデジタル分析(Using Benford’s Law to Detect Fraud)」のワークブックとCD-ROM 、そしてヨーガン・ケイシー(Eoghan Casey)の著書である「デジタル証拠とコンピュータ犯罪(Digital Evidence and Computer Crime)」がある。
 
インタビューに応じてくれた人々はデジタル分析に関する継続的教育コースに出席することを勧めた(www.ACFE.com/training/train.aspを参照) 。また、彼らはデジタル分析用ソフトウェア・パッケージに精通しておくことが非常に重要であることを強調した。彼らの全員が、ベンフォードの法則の特性が内蔵されたACLが良質のパッケージであると考えており、バーは、ACLにはPC用とサーバ用のバージョンがあると話してくれた。デジタル分析に使用できるその他のソフトウェア・パッケージにはMS Access、Idea、DATAS(digital analysis tests and statistics)などがある。カーティスは、デジタル分析を始める時には、どのようにデータが蓄積され、それにどうやってアクセスするのかを知っておくことが重要であると語った。しかし、彼は「本当に重要なスキルは、テストを設計しデータをテストに適したサブセットに絞り込んで行くことです。」と力説した。
 
 
 
責任をとる (TAKING RESPONSIBILITY)
 
 
要約すると、インタビューに応じてくれた全員が、デジタル分析は不正行為の発見・抑止の両方に役立つため、不正対策に有効なツールであると異口同音に答えた。しかしながら、デジタル分析にも欠点があることは確かであるとも全員が強調した。恐らく、最も重大な欠点は、デジタル分析が生んでしまう偽陽性の数である。他の欠点には、データへのアクセスの難しさ、データ偏差の事後調査に要する時間が挙げられる。一方で、デジタル分析には以下のようなプラス面もある。
 
  • データセットを100%調査することができる
  • データセットを先入観なく調査することができる
  • 内部監査の対象範囲をより有効に設定できる
  • 継続的に業務をモニタリングできる
  • 不正行為を抑止する潜在力がある
 
デジタル分析は、不正との闘いにおいて全ての専門家が使用できるツールである。
 
 
 (注1)これは、実際の事件にもとづいた架空の事例である。
 
 
 
 
リンダ・M・レイニック博士(Linda M. Leinicke, Ph.D.、CPA)
イリノイ州ノーマルにあるイリノイ州立大学の会計学教授である。 
 
ジョイス・A・オストロスキー博士(Joyce A. Ostrosky, Ph.D., CPA, CMA)
イリノイ州ノーマルにあるイリノイ州立大学の会計学教授である。 
 
W・マックス・レックスロード博士(W. Max Rexroad, Ph.D., CPA)
イリノイ州ノーマルにあるイリノイ州立大学の会計学名誉教授である。著者は、この記事の執筆に貢献してくれたイリノイ州ノーマン、イリノイ州立大学の修士生であるローレン・セッターランド(Lauren Setterlund)に対し感謝の意を示している。 
 
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