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ACFE JAPAN 理事長対談 第4回
第4回 日本監査役協会会長 岡田譲治 氏と共に「企業不正の防止・抑止・早期発見」を考える

第四回目の対談は、公益社団法人日本監査役協会 会長 岡田譲治 氏をお迎えし、「企業不正を防ぐために ~不正の防止・抑止・早期発見~」をテーマに藤沼理事長とお話いただきます。
岡田氏は三井物産株式会社で、経理・財務部門を経て、2011 年より同社の CFO に、2015 年に常勤監査役に就任され、企業統治の一翼を担うご活躍をされています。また 2013 年より IFRS 財団 Trustee (評議員) を務められている、名実ともに国際派のエグゼクティブのお一人です。2017 年 11 月には、公益社団法人日本監査役協会の会長に就任され、監査役等の監査品質の向上や協会事業の尚一層の発展に尽力されています。そして 2018 年 4 月に日本公認不正検査士協会の評議員にもご就任いただきました。
日本企業で多発している不正事件においての監査役等の責任・役割、そして、監査役等の視点からどのように不正対策をすべきか、また、このような企業不正における CFE の役割や CFE に期待することについてもお話を伺いたいと思います。
(聞き手:ACFE JAPAN 理事長 藤沼亜起)
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藤沼亜起 (ふじぬま つぐおき)
日本公認不正検査士協会 理事長 (2018/6-)、公認会計士、公認不正検査士 (CFE)
1974 年 公認会計士 登録。国際会計士連盟 (IFAC) 会長 (2000-2002)、日本公認会計協会 会長 (2004-2007)、IFRS 財団 評議員会 (Trustees) 副議長などを歴任。

目次

日本監査役協会の近年の取り組み

岡田譲治氏の写真
岡田譲治 (おかだ じょうじ)
三井物産株式会社 常勤監査役、公益社団法人日本監査役協会 会長、ACFE JAPAN 評議員
三井物産株式会社にて、執行役員経理部長、代表取締役 常務執行役員 CFO、代表取締役 副社長執行役員 CFO を経て、現職。

藤沼:本日はよろしくお願いします。企業統治改革、コーポレーション ガバナンス・コードが実施されて、近年、監査役等を取り巻く環境は大きく変化しています。私が存じ上げている中では、日本監査役協会の中で国際派の会長としてトップに立たれたのは岡田さんが初めてではないかと感じております。まず、日本監査役協会の近年の取り組みについてお聞かせいただけますか。

岡田:ありがとうございます。事業のグローバル化に伴いまして、色々な点で国際基準との合致が求められるようになってきています。現在携わっている IFRS (国際財務報告基準) もその一つですし、監査基準も国際監査に合わせて KAM (Key Audit Matters:監査上の主要な検討事項) の導入が検討されています。また、企業統治改革が推進される中で、2014 年にスチュワードシップ・コードが策定され[1]、2015 年にコーポレート ガバナンス・コードが策定され[2] ました。さらに株式会社のガバナンスの一形態として 2001 年に始まった委員会制度は、欧米型の委員会による監督を目指したもので、現在では委員会等設置会社の流れを汲む指名委員会等設置会社に加え、監査等委員会という機関設計も導入されており、監査等委員会設置会社は 700 社を超えています。
このような流れの中で、日本監査役協会としても従来からの監査役だけでなく、監査委員の方、監査等委員の方も含む幅広い対応が必要な状況になっています。監査役制度そのものは独任制に加え、監査役会設置会社では常勤制が義務付けられているという意味では、欧米の制度にはない日本独自の発展を遂げた姿であり、監査という観点からは委員会制度にはない長所があると考えています。
その一方で、委員会制度にも監査役制度にはない良い点があると思います。日本ではこのように 3 つのガバナンス体制が現在認められていますが、それぞれに一長一短があるように思います。委員会制度については、欧米でなぜ、どのように機能しているのかということを見極めた上で、日本の風土とも整合するような制度を、よく考えていかなければならないと個人的に思っております。
日本監査役協会は、監査役等の皆様を支援することが目的の組織ですから、監査役のみならず、監査委員、監査等委員の全ての皆様への監査品質の向上への支援を行っています。具体的には、監査実務部会などさまざまな意見交換の場を設け、研修会、全国会議といった研修活動を実施しています。また、監査実務支援の一環として、監査役等の監査基準、監査報告書のひな型などを公表しており、会社法改正やコーポレート ガバナンス・コードの改訂などがあると適宜改定を行っております。加えて、各種委員会や研究会で時機に合ったテーマを選び調査研究を行い、研究報告書の公表などを行っております。
当協会は、今年 7 月時点で 6,500 社を超える会員を抱える大組織になっています。現在の協会運営の課題の一つは、三つの統治体制に加え、上場会社、非上場会社、大会社、中小会社といった形態も規模も様々な会社が会員として存在し、これらの会社全てにご満足いただける事業運営とすることです。
監査役制度の認知度の向上も課題の一つです。海外、特に議決権行使アドバイス会社や投資家から議決権を持たない監査役の機能を疑問視する発言がなされることもあります。国内でも認知度をもう一段高めることに加え、これは監査役制度に限るわけではありませんが、監査を行う役員の地位を向上させることを通じて、監査役等の方には今まで以上に執行に物を申すという覚悟を持っていただきたいと思います。

企業不正について考えること

藤沼:2017 年 11 月の会長ご就任後も不正会計その他の様々な不正事件が起きています。このような状況は監査役の実務や活動に大きな影響を及ぼしているのでしょうか。日本監査役協会として特に考えていることはおありでしょうか。

岡田:特に事業のグローバル化に伴い、不祥事が複雑化している印象があります。また、海外の子会社絡みの不正も数多く発覚しております。加えて会計不正も数多く発覚しているのですが、不正の内容は循環取引のような以前からの伝統的な粉飾だけでなく、減損、のれんの評価といった経営判断に関わる事案も多々出てきています。これだけ幅が広がると監査役等とそのスタッフで網羅的に対応ができるか、私としては懐疑的ではあります。
ただ、不正を発見するだけではなく、予防できる仕組みづくりが会社にあるか、ここに力点を置いて監査をしていくことが重要ではないかと考えています。実効性を高めるという意味では、三様監査間の連携、監査役等の監査だけでなく、会計監査人と内部監査部門の監査を総称して三様監査と私どもは言っていますが、会計監査人と内部監査部門との連携も非常に重要だと思っております。
不正防止に関する監査役等の役割に対する社会の期待の高まりは実感しており、期待に応えるべく監査役等が従来にも増して真摯に取り組むことは勿論ですが、コーポレート ガバナンス・コードでも監査役等は守備範囲を過度に狭く捉えることは適切でない、積極的・能動的に権限を行使すべきだといわれております。監査に限らず、自らの職責を広く捉えて職務を行っている監査役等も増えてきており、監査役等は以前より相当多忙になっていることも付け加えたいと思います。
日本監査役協会としては、不正防止に向けた調査研究を実施し、それに関する報告書も公表しております。また、最近の不祥事例についても今、研究を行っているところであります。さらに三様監査間の連携の強化に向け、日本公認会計士協会、日本内部監査協会との協働を深化させたいと思っています。

内部通報制度を機能させる

藤沼:確かに三様監査は本当に大事だと思います。では、会計不正だけでなく、製造業の品質に関わる不正やデータ偽装などの不祥事が露呈している現状についてお伺いします。このような不祥事が明るみに出た経緯を見てみると内部通報制度を利用せずに直接外部機関に通報をしているのではないかと考えられます。ネット社会では、企業不正は隠し通すことができなくなってきており、企業の広報活動も重要ですし、一層の不正対策の必要性も高まっていると思います。内部通報が機能しなかった理由はどこにあるとお考えでしょうか。次に不正事件は結果的に企業のブランド価値を傷つけるだけでなく、顧客との関係や企業の存続にも悪影響を与えると思いますが、有効な不正防止はありますでしょうか。

岡田:内部通報制度がなぜ機能しなかったのか、ということですが、確かに報道機関も含めて第三者機関への告発が多いですね。つまり、内部通報制度は持っていても、そこを通じた通報がなかなかないというのが現実だと感じています。その原因を一般論で申し上げれば、やはり社内の風通しが悪い、経営陣に対して信頼が欠けているということではないでしょうか。
社内の風通しが良ければ、上司や経営に対する信頼が保たれ、内部通報制度を利用しなくても社内で声が上がり、上層部がその声に耳を傾けることになります。ただ、職制による報告が機能しないケースも考えられ、内部通報制度はそのようなケースの最後の砦ということになるはずです。このような仕組みが働かないのは社内の内部統制環境が確立されていないからではないでしょうか。通報してももみ消されるのではないか、通報したことが公にされ不利益処分を受けるのではないかといった疑いが従業員の間にあるのではないかと想像します。
内部通報制度の利用を促進するには、通報の取り扱いを明確なメッセージの形で社内に伝えることが重要です。匿名性の保証と通報者保護の制度が担保され、かつそれをきちんと伝えていくトップの姿勢があって内部通報制度への信頼感が生まれます。報復を恐れるとどうしても通報を躊躇します。その不安を払拭するためには経営トップの姿勢が重要だと思います。トップが「コンプライアンスに対して私は真摯に取り組んでいる」というメッセージを発信して、行動で示す。そして、外部の第三者機関の利用を制度化すると通報しやすくなるとも考えられます。やはり最後はトップの姿勢、謙虚さ、聴く姿勢だと思います。

藤沼:トップの姿勢は重要ですね。

岡田:先日の日経産業新聞の記事に「オーソリティ・グレーディエント (Authority Gradient:権威勾配)」という考え方が紹介されていました[3]。例えば品質管理を担当するチームに圧倒的な知識を持っている人がいるとします。すると下のレベルから問題提起をしても、その人が「大丈夫だ。問題ない」と言うと、誰もそれ以上何も言えなくなるということです。データ不正の過程には、このような状況もあったのではないでしょうか。
権威勾配はもともと航空機の機長と副操縦士の関係を表したものだそうですが、この勾配が過度に急な場合、つまり機長の権威が強すぎると大事故につながるといわれています。

藤沼:ものが言えない服従型の組織では下からの訂正機能が働かないですね。

岡田:航空機の機長、組織のトップの人が、「私の行動に問題があれば言ってください」と言い、実際に言ってくれたならば感謝する。こういう姿勢は内部通報制度にも通じるものがあり、日本の企業でも上に逆らえない風土を変える必要があると思います。

藤沼:月次報告で悪い知らせを最初にするという方針を実践している大企業もありますね。良いことは急がなくても伝わるけれど、クレームや事故は緊急の対応が必要ですから最初に報告する。そして報告に対して「ありがとう」という感謝の気持ちを持つ。では不正の防止策についてはいかがでしょうか。

有効な不正防止策とは

岡田:不正は企業のブランド価値を大きく傷つけ、顧客との関係や企業の存続にも影響を与える。これはおっしゃるとおりです。企業それぞれに業態も規模も置かれた経営環境も違いますし、リスク ファクターも異なりますから、全ての企業にとって有効な防止策を一つ挙げるのはやはり難しいと思います。それぞれの組織がリスク プロファイリングをして、その検証をする。つまるところ内部統制体制が適切に構築され、運用されているかのモニタリングが重要と考えます。これは監査役等としても業務監査の要素として大事だと思います。
一方では、構築した内部統制体制を従業員の意識調査などで補完していくことも大事だと思います。ここにもトップの姿勢が果たす一つの役割があると思います。海外の企業では「アワー・クレド (Our Credo:我々の信条)」や企業の理念を従業員にパンフレットとして配付し、それを徹底することが評価にもつながるという方針を明確に打ち出している例が多く見られます。日本企業では社是、社訓という形で示されたりもしているようですが、もう少し具体的な形にしたものを徹底することが必要だと思います。常にトップがメッセージを出し続ける。対外的には企業のウェブ サイトで公開する。例えば、そこに当社の社員はキックバックや賄賂は絶対に要求しませんと記載しておくと、不当な要求をされた企業は「ウェブサイトには要求しないと書いてあるのに・・・」と、本当に通報してくるかもしれないですね。そういう意味での通報も有益ですので、このような取り組みが日本の企業にも広がるとよいと思います。それと、性弱説では、人間は見られていると思えば悪いことをしないのが普通です。例えば監視カメラが設置されているレジで敢えて不正をする人はいないでしょう。私は会計課長であった当時、伝票にサインする際に時々質問もするようにしていました。従業員が「あの人は見ているな、リスクが高いな」と思うことで不正の機会を与えないことにもなりますね。統制環境はこのような日常業務の中にも存在するということです。

藤沼:それは非常に大事ですね。

岡田:不正のトライアングルを理解して管理者側がそれを使えば、リスクの低減が期待できます。さらに補強してメッセージを出して、何重にも防止のラインをつくるというのが重要ではないかと思います。

製造業の不正に対する監査役の役割

藤沼亜起氏の写真
対談での藤沼亜起氏

藤沼:最近では、製造大国日本への信頼を揺るがすような不正事例も報告されていますね。財務、会計取引、法令遵守だけでなく、品質管理やデータ管理など製造現場に近い領域にまで監査役の守備範囲が広がっているような印象を受けます。

岡田:日本監査役協会としては、最近の事例を通じ、不正事例の原因分析や防止策の検討に取り組んでいます。ただ、一般論として監査役等が見るべきは、企業風土、経営トップの姿勢、中でも経営からのプレッシャーや風通しの悪さがないかという点ではないでしょうか。最終的にトップの姿勢に疑問がある場合には、トップと対峙するぐらいの覚悟を持ってほしいと個人的に思っています。
監査役等が知っていても止めなかったという例は言語道断ですが、知っていて止められなかったケースでは、もっと執行と対峙する覚悟をしてほしいと思います。さらに知らなかった、知らされていなかったというのは、言い訳にならなくなってきていると思っています。2013 年のセイクレスト社の事例[4]や、より古くは 2000 年の大和銀行ニューヨーク支店損失事件[5]では、監査役が善管注意義務又は忠実義務懈怠で有罪判決を受けました。監査役等にも職務に踏み込んだ姿勢や工夫が求められると考えさせられます。
工場の現場でのデータ改ざんや不正も、工場に行って工場長とお話ししましたというだけでは不十分かもしれません。監査役は聞いてくれるという信頼感があれば、経営陣に言えないことも現場の従業員は話してくれるのではないでしょうか。また 3 つのディフェンス ラインに照らして、例えば工場の中の品質検査部門が工場長の下に置かれていたとしたら、そこを監査役として指摘して、管理本部の職制下に入れて製造部門からの独立性を確保するなど、組織を見ながら工夫するだけで相当違ってくると思います。

実事例からの教訓

藤沼:実際に現場へ行く監査役の存在は大事ですね。私は日本公認会計士協会で社外役員ネットワークの代表幹事として、監査役、あるいは監査委員を務める会計士の教育などに関わっているのですが、常勤監査役の重要性を指摘するコメントを耳にすることが多いです。
不正対策としては、発見だけでなく、内部統制を含め、防止と抑止も重要だと考えています。よろしければ御社 (三井物産株式会社) での過去の事例やその対策についてお話いただけますか。

岡田:40 年も前のことですが、海外で、相場の神様と呼ばれ、相場商品の取引をしていたトレーダーの例があります。実は損失を出していた彼の説明に周囲がなんとなく納得している中で、上司である課長がこれほど好条件で取引をしてくれるお客様なら一度お礼の挨拶に行こうと発言しました。それが引き金になって、彼は自分の不正、つまり契約書を偽造しているということを白状しました。この事例の私にとっての第一の教訓は、相場の神様はいないということでしたが、もう 1 つ、実態の確認が非常に大事だということを実感しました。「契約書がある」という彼の説明を聞きつつも契約書の実在性を取引先と直接確認する。この基本動作が経理部門に欠けていました。「挨拶に行こう」とおっしゃったこの方はすごいと思います。

藤沼:担当が一人しかいない海外子会社で小規模だから内部監査もないと安心していた。ところが、「内部監査に行く」という話を伝えたら、本人から「実は私は金融商品取引で多額の損失を出しています」と自白があったという話を聞いたことがあります。やはり監査に行くというのは一つの牽制になりますね。

岡田:もう一つは 2004 年のディーゼル排気微粒子除去装置 (DPF; Diesel Particulate Filter) を製造販売する子会社が性能に関するデータを偽造して東京都の指定承認を受けていた件です。このときの当社の対応は、直ぐに問題を対外的に公表すると同時に、当該 DPF を購入したお客様 (トラック業者) に対して全額補償するという姿勢を示しました。この問題の原因を解明する過程で指摘されたのは利益に対する経営側の期待が膨らんだ結果、現場が本当のことを言えなくなってしまったという点でした。この反省から、三井物産では、家族のために、お客様・パートナーのために、そして社会のためにという 3 つの視点から「良い仕事」か否かを必ず自省して考えようという運動をした結果、社内に相当根付きました。もちろん問題のないことが理想ですが、重大な危機が企業理念を考え直す機会になりました。経営陣は危機感を持って、そのたびに内部統制を見直していくことが大事かと思います。

監査役会に求められる情報開示

藤沼:貴重な経験談をありがとうございました。監査役をめぐる社会の要請についてもう少し伺いたいと思います。先月監査役会の情報開示の拡充についての記事[6]が掲載されました。日本監査役協会としてのご対応についてお聞かせいただけますか。

岡田:これは金融審議会の「ディスクロージャー ワーキング・グループ」が出した「監査役会等の活動状況の開示を求めるべきである」という提言を踏まえた記事です。確かに監査役会等の活動を表に出していく必要性は感じます。監査役等には会計監査人の選解任の議案内容の決定権や報酬同意権がありますから、再任の基準、監査人の評価の決定プロセス、監査報酬の同意のプロセスをもう少し開示するなど、監査役会等の活動状況を開示するほうが望ましいかもしれません。一方で機微情報に触れるような部分は明らかにすべきでないとも考えています。

藤沼:監査役の方から実情を聞くと、監査役等は社外監査法人との会議、往査など、かなり忙しく活動しています。

岡田:冒頭に申し上げた監査役等の地位向上とか認知度を高めるということからいうと、今、藤沼先生がおっしゃったようなことを、もっと明確にしていく必要があると思っています。

監査役に必要な資質とは

藤沼:今の監査役会の情報開示の件からも企業の監査役への期待が社会的にも広がっていることが伺えます。監査役に求められる資質とはどのようなものか、お考えをお聞かせいただけますか。

岡田:ESG 経営[7]という言葉にも代表されるように、企業は利益を追求するだけでなく社会的な存在であるという認識は一般的になりつつあります。そういう中で監査役等はコーポレート ガバナンスの一翼を担うべきだという期待がより一層高まっています。
監査役制度について言えば、いろいろな企業不祥事が発生するたびに監査役の権限が強化されてきたという歴史があります。業務監査の実施、財産に対する調査権、違法行為の差止請求権、会計監査人の選解任に関する議案内容の決定権、会計監査人の報酬の同意権等です。それでも不祥事の根絶には至らないので、委員会設置会社や欧米型のコーポレート ガバナンスを取り入れるという動きになっていますが、監査役はやはり原点に戻り、自らの権限を自覚した上で経営に対して物を申していく覚悟を持ち、独任制や常勤制といった強みを生かしていくべきでしょう。

藤沼:監査等委員会設置会社と比較したり、議論や検討を重ねたりした上で監査役会設置会社という形態を選択している公開会社もあるわけですよね。

岡田:三井物産でも、外国人を含む社外取締役に監査役の機能について丁寧に説明して理解してもらい、ガバナンス委員会でも議論した末に監査役会設置会社という形に決定しました。同様の選択をする会社が増えてきていると私も思っています。
監査役等の資質という点に戻りますと、やはり財務・会計方面の知識は必須ですね。三井物産の場合は、公認会計士協会 前会長の森公高氏に入っていただき、さらに社内事情に精通した方にもお願いしています。
別のインタビューで「最も大切な監査役等の資質は何か」と質問されたのですが、そのとき次のように答えました。
「まずは洞察力と対話力です。その企業にどんなリスクがあるのか、現場や監査人と話して本質を聞き出す力が必要だと思います。それから、積極性だと思います。必要であればガバナンスを変える提言をする姿勢がやはり監査役等には求められます。最後に役員としての高潔さ、インテグリティ、これが大事です。何よりもガバナンスの主役という自覚と覚悟が必要です」と。これは強調しておきたいところですね。

藤沼:同感です。執行部が提案する戦略の中で非常にリスクがあった場合、監査役として質問することは当然許されるのですからきちんと専門家として発言するように、私も社外役員ネットワークのセミナーでも強調しています。

CFE (公認不正検査士) に対する期待

藤沼:御社(三井物産)では多くの方に CFE (公認不正検査士) 資格を取得していただいています。彼らはどのような役割を果たすべきだと思われますか。CFE への期待をお聞かせください。

岡田:この資格は、不正防止・抑止・発見の分野で専門家としての能力を認定するということで、CFE 資格者はやはり企業には欠かせない存在だと思います。内部監査部門や監査役等の人たちにとってもちろん有用な資格と思いますが、彼等にとどまらず企業の中にいる人達全般が、不正に対する感度を上げるための基礎知識として勉強して欲しいと思います。
企業には第三のディフェンス ライン、つまり内部監査部門がありますが、第一のディフェンスを担う現場自身が、リスク感覚あるいは不正に対する敏感さを持たねばならないと思います。監査を受けて初めてまずいことに気づくのではなく、伝票にサインするときに職務分離が適切に行われているか、発見統制が機能しているかなどを現場自身で意識する姿勢が必要です。やはり、CFE 資格者が多ければ多いほど企業にとっては有益だと思っています。

藤沼:非常に良いことを言っていただきまして、ありがとうございます。

CFE 資格の社会的認知度向上に向けて

岡田:では私の方からお伺いしてもよろしいでしょうか。私は、先ほど申しましたとおり CFE 資格者が活動の場を広げることを願っていますが、CFE 資格の社会的認知度を上げるために日本公認不正検査士協会としてどのような活動を考えていらっしゃいますか。

藤沼:不正対策には CFE の資格者の知識や経験が非常に有用です。しかしながら CFE 資格は実務経験や試験のための学習範囲 (4 科目) 等、要件が厳しいと思われることもあるようで、日本でメジャーな資格になるにはもう少し努力が必要だと感じています。本日お願いしているインタビューなどを通して一層の情報発信を行い、資格取得者の増加に努めていくつもりです。また、あらゆるところでいろいろな不正が行われている社会情勢の中、不正対策に関わる手法とか技術を総合的に学んだ CFE 資格者のニーズの高まりを期待しています。
CFE の知識体系は会計監査にも適用可能ですし、社外監査役が上司の過度なプレッシャーや従業員の分不相応な生活は不正の兆候になり得るということを理解していれば、それが従業員にとっての「見られている」という抑止にもつながります。
ACFE JAPAN の現在の会員には、公認会計士、弁護士、内部監査人などの有資格者もいます。6 月に米国ラスベガスで開催された ACFE グローバル カンファレンスでお会いした人は、名刺に CPA、CFE、CIA など複数の資格を載せていました。専門職の資格は一つで終わりではないわけですね。ACFE JAPAN では日本の専門職の方にも有益な継続的教育プログラムの開発・提供に重点的に取り組みたいと考えています。

CFE 資格の独自性・実効性

岡田:CFE は米国から導入された資格ですが、日本では、元々高品質を徹底的に追及してきた歴史の中で、「品質管理において契約上の取り決めが必ずしも重要視されていない」といった日本独特の慣習に起因する不祥事案も散見されます。このような不祥事案に対する CFE 資格の実効性についてはどのようにお考えですか。

藤沼:一般に、欧米は契約社会ですので、品質面においても契約書が全てであり、契約書に記載されている内容の以下でも以上でもありません。最近は、契約上の取り決めを守らずに、自社の都合を優先してしまう企業風土や従業員の意識、それを制御する統制ができていない企業が品質不正を行ったのではないかと感じることが多いですね。日本の購買担当は必要以上の品質を要求するところがあり、納入者側が努力したものの、求められた品質のレベルに達しないときには「トクサイ (特別採用)」に逃げ込むこともあったのではないでしょうか。
このような日本の業界慣行は、国際化の時代には通用せず、契約違反で訴えられる可能性も増えていくのではないかと思います。契約上の齟齬というのは、CFE 資格と弁護士の両方の資格を持っている方は、有益ではないのかとも考えています。
不正が発見した後の調査においては、品質不正の調査は技術的な専門知識が必要となるので CFE といえども万能というわけではないとは思います。しかし、現場の人間に聞き取り調査をするとき、CFE がもっているヒアリング技術は有効ですし、不正調査報告書の書き方を知っていることもとても役に立つと思います。
また、不正を行った者はなぜそのような行為に至ったのかということについて、不正実行者の心理的な側面を知ることはとても有益なことです。ACFE 独自と思われる取り組みの一つに、有罪判決を受けた不正実行者がカンファレンスの講演者として登壇をし、その当時のことについて語ってもらうというものがあります。6 月の ACFE グローバル カンファレンスでは、最終日のランチ セッションで、勤務先で不正に小切手を発行して 1 億 3 千万ドル近くを横領した人物に、不正に手を染めた理由、そのときどのように感じていたか、などをインタビューしていました。なぜ不正を起こしてしまったかの心理・環境的な問題、またその根本原因を示唆してくれる、とても興味深い話を聞くことができました。
経営者の中には、性善説で従業員を信じているとおっしゃる方もいます。しかし、実際に金銭的に困ると人間は弱いものですし、すぐ返すつもりで借りただけだという犯罪者の内心の正当化、不正を可能にする機会が隠れている組織の弱点など、学ぶべき点は多いです。

岡田:10 月の ACFE JAPAN カンファレンスには大王製紙の元会長の井川意高氏が登壇されますね。

藤沼:はい。「大王製紙の巨額借入事件はなぜ起こったか? ~経営者の間違いと組織の間違い」ということで、八田進二氏 (青山学院大学 名誉教授) にモデレーターをお願いして、政経電論 編集長の佐藤尊徳氏を交えた鼎談の形式で、不正に手を染めた経営者の動機と、取り巻く環境、何故組織がそれを防げなかったなど根本原因に迫ります。

本記事は対談実施時の内容をそのまま掲載しております。第9回 ACFE JAPAN カンファレンスは 2018 年 10 月 5 日(金) に開催し、大盛況のうちに終了しました。開催レポートも掲載しておりますので、あわせてご覧ください。

脚注