公開日・更新日:2019-07-11

第 30 回 ACFE 年次総会レポート (2 日目 基調講演 (General Session) 2)

セラノスの内部告発者は、自分の家族関係を危険にさらして不正を明らかにした

Theranos Whistleblower Risked His Relationship with His Family to Expose Fraud

2015 年 10 月、(経営者向け雑誌) インク・マガジン (Inc. magazine) は、黒のタートルネックを着た金髪の若い女性を表紙に載せて、特集記事を組んだ。彼女の名前は、エリザベス・ホームズ (Elizabeth Holmes) であり、セラノス (Theranos) という企業の創業者であり、人々は彼女を「第二のスティーブ・ジョブズ」と喧伝した。セラノスは革命的な血液検査法の実用化を約束したと世界で知られ、投資家が金銭を投じてもその会社の成長に追いつかなかった。

 

その会社に 7 億ドル以上をつぎ込んだ投資家たちにとっては不幸なことに、彼女の約束した技術は存在しなかった。そして、当初からの投資家で取締役でもある人物の孫にあたる、ある従業員が、金銭、安全、そして自分の家族関係も危険にさらしてセラノスの不正を暴露した。

 

第 30 回 ACFE グローバル カンファレンスの質疑応答形式のセッションで、タイラー・シュルツ (Tyler Shultz) は、希望に燃えて入社してから、何層もの欺瞞をウォール・ストリート・ジャーナルの記者に暴露するまでの経緯を参加者に語った。

 

脅迫と欺瞞の文化 (A culture of intimidation and deceit)

シュルツが初めてエリザベスと会ったのは、祖父の家の居間であった。彼の祖父は、財務省長官、労働長官、行政予算管理局長官を務めたジョージ・シュルツ (George Shultz) である。ジョージ・シュルツはセラノスの初期の投資家であり、2011 年 12 月から 2015 年まで同社の取締役であった。ホームズがセラノスについて説明するのを聞いてタイラー・シュルツはすぐに入社したいと思った。「私は圧倒されました」と彼はラディカル・コンプライアンス (Radical Compliance) の編集者兼 CEO である聞き手のマット・ケリー (Matt Kelly) に語った。「その技術は無限大だと思いました」

 

しかし入社した初日に、彼は、会社の文化にいくつか不審な点があることにすぐ気付いた。組立チームのマネージャは、少し前のホームズとの衝突が原因で、駐車場で泣いていた。事件はそれだけではなかった。彼は組立品を検査する研究室の一つで勤務することになったが、大勢の才能ある人材が燃え尽きて会社を辞めていくのを見た。「そのラボでは、人々は徹夜で働き・・・そして去って行きました」

 

「セラノスの労働文化は本当に有害でした。人々は秘密主義を極端に重んじ、声を上げた人が解雇されるのを目にしました。ですから、ほとんどの人は何も言わずに身をひそめて静かにしていました」

彼は間もなくセラノスの先進的なテクノロジーだと言われていたものを実際には誰一人使っていないことに気付いた。「振り返ってみれば危険信号がありました。私は博士号を持つ上級研究員と一緒に働いていましたが、誰もセラノスの機器を見たことはありませんでした」

 

シュルツはその技術が機能しないことは公然の秘密だったと述べた。「これは冗談だと皆が知っているのは明白でした」

彼が自分の懸念を経営陣に知らせるようになって 6 か月たった。「私は良い従業員だと思っていました。エリザベスと話し合う必要がありました。私はいくつかの点を慎重に取り扱いました」。彼はエリザベスに、彼らが実験室で何度も実施した精度検査は、高い差異係数 (訳注:異常を示す係数の意) と欠陥率を示したと報告した。

 

彼がホームズの所へ行くと、彼女は、すべてうまく行っており、検査技術の正確性を偽っていることはないと彼を安心させた。彼は、研究室で仕事をしていると自分が沈没していく船に乗っているように感じると言ったが、ホームズと話すと、彼女は決まってすべて正常であるふりを装うのだった。「二つの異なる世界を折り合わせるのは本当に辛いことでした」

 

彼は、会社がサードパーティの設備を購入するためにシェル・カンパニー (架空の会社) を利用しているのを知った。セラノスの設備が正確に動作できなかったとき、彼らはサードパーティの機器で実施したテストの数値を報告するようにとだけ指示された。

 

梅毒に対して陽性であると分かっていた血液検体を (セラノス社の技術で) テストしたところ、そのときのテストの精度はたったの 60% だった。統計チームは、それでもその結果を押し通そうとした。「恐怖を感じたのはそのときです。私は『ああ、これでは誰かが本当に被害を受ける』と思いました」。会社がバージョン 4.0 を発売すると発表したときが彼の限界だった。しかし会社はその結果に満足していたので実際には何の変更も行っていなかった。「そのときに私は、この会社は自己認識が全くできていないので、希望はゼロだと悟りました」

 

予想外の内部通報者 (Accidental whistleblower)

シュルツが参加者に向けて何度も強調したのは、彼は最初から内部通報者になろうとは思っておらず、単に社内で懸念点を提起し、内部でそれらが解決されるのを願っていたということである。「セラノスを辞めるとき、私はエリザベス宛に、自分のたくさんの懸念点が何かを詳しく説明する長文の電子メールを送りました」。しかしながら、返信はエリザベスではなく、当時セラノスの社長兼 CEO であったラメシュ・サニー・バルワニ (Ramesh “Sunny” Balwani) から送られてきた。バルワニからの返信は 8 ページにも及ぶ長いもので、赤の太字で書かれていた。そのメールの中で、バルワニはシュルツを傲慢だと呼び、何も理解していないと非難し、もし彼の姓がシュルツでなければ、自分で退職するよりずっと前に解雇されていたはずだと述べていた。

 

このころ、シュルツはウォール・ストリート・ジャーナルの医療不正の記者であるジョン・カリヨー (John Carreyrou) から LinkedIn のメッセージを受け取っていた。シュルツはすでにニューヨーク州公衆衛生研究所に秘密の情報を送っていたが、何の返信も受けていなかった。彼の祖父であるジョージは、依然としてセラノスに深く関わっており、セラノスの威嚇戦術のことを耳にしたので、カリヨーに話しをすることについて (セラノスから報復があるかもしれないと) 怯えを抱くようになっていた。

 

「私は現金でプリペイド式の携帯電話を買って彼に電話をかけ、『君がセラノスについて知っていることを教えてくれないか?』と尋ねました」

彼が報道機関に話したことをセラノスが悟るのに長い時間はかからなかった。初めてカリヨーと話をして1か月後、彼は両親に会いに実家へ戻った。彼の父親は激怒していた。「彼はセラノスがどんなに馬鹿げているか知っていました」とシュルツは述べた。彼の祖父は電話で「エリザベスは、お前が営業秘密をウォール・ストリート・ジャーナルに漏らしたと主張している」と言った。

 

シュルツの家族は、セラノスが必要としているのは、彼がセラノスの弁護士と面会して一枚の秘密保持契約書にサインすることであり、そうすればすべては終わると断言した。彼は、弁護士の同席なしで先に祖父と二人で面会したいと頼んだ。祖父は同意したが、話し合った後も彼は不正に関してシュルツを信じようとしなかった。そして祖父の家の裏の小部屋からセラノスの弁護士たちが現れてシュルツを驚かせた。

 

実際には彼らがシュルツの署名を求めたのは一枚の秘密保持契約書ではなく、一時的接近禁止命令、裁判所命令、他の内部通報者の氏名を挙げる誓約書を含む一連の法令書式だった。「その面会が実際どれほど白熱したかを説明するのは難しいのですが・・・彼は私よりエリザベスとセラノスを選んだのです」

 

彼の両親はセラノスの依頼が何であれ、それに署名するように懇願したが、彼はそれを拒んだ。「私はその間ずっと真実を語っており、真実を語り続けたいと思っていました。私は頭からつま先まで弁護士に囲まれていました。本当に寂しく恐ろしい時間でした」

 

自分が見た非倫理的な慣習に対する懸念を提起するというシュルツの意思と、カリヨーのセラノスの内部を暴く複数の記事が大きく貢献して、この会社は操業を停止し、ホームズとバルワニは 2 件の通信不正 (訳注:電話や通信を使用した詐欺・不正な勧誘) の共謀罪と 9 件の通信不正で告訴された。彼らはいずれも 20 年の刑期と 270 万ドルの罰金に直面している。

 

シュルツは、自分の身よりも真実を選んだ功績で、クリフ・ロバートソン・センティネル賞を受賞した。

 

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